ハルティア─Reverse Dagger─

森亞ニキ

新たなる旅立ち 編

第1話 まどろみの中で



 ──運命は、変えられるのか。



 その壁は高く、乗り越えることは不可能に思われるかもしれない。

 たった一回しか開かない扉の向こうで、果たして望みをかなえるのが不可能だと思うかもしれない。

 そしてこちらに戻ってきたとき、記憶もなにもかも、なかったことになってしまうかもしれない。

 

 だが恐れるな。そして誤るな。


 ──時は、決して手を緩めない。



「行きます。それでも、俺は決めたんです」

 少年は力強く頷いて見せた。インクブルーの濃い青い髪が顔に掛かったが、それを払いのけることをしなかった。──本当は、不安か、期待か、迷いか、本人でも良くわからない感情でそんなことを気にかける余裕がなかったのだ。ただ目の前にいる男に見せまいと、必死に震える掌を握り締めていた。

 男は、少年の震えは見ていないようだった。自分を真っ直ぐに見つめる群青色の瞳に応えるべく見つめ返していたのだ。

「もう一度だけ、言わせてくれ。……本当に行くのか?」

「はい。……何を言われても、俺は行こうと思っています」

「……そうか」

 先に目をそらしたのは男の方だ。

 少年の強い瞳から逃げるように視線を外すと、そっと青い光の篭る鏡を見た。

「君の仲間が君を追う、といったら私はどうするべきだろうか?」

「皆のしたいようにさせてあげてください。……『条件』を告げた上で。」

「わかった。そうしよう」

 男が頷くのを見て、少年の群青色の瞳が青い光と呼応するように別の色に染まっていく──紫に。

「……その。」

 男が少年に声をかける。すると、少年の瞳は元の群青色に戻っていった。男はそれを見て僅かに瞠目するが、すぐに冷静な声で続けた。

「君の願いを叶えるのために……君は、『あの子』を探すのか?」

「はい。『旅の果て』になにが起こったのかを知るには、一緒に行動をするのがいいと思いますし」

「……。」

「『あの人』は、『あの時』は優しい人でした。──ちゃんと分かってるつもりですから。『今』と、『あの時』の間には大きな扉あるってことを。それを今から抉じ開けるってことも、です。」

「……ふう、もう何も言えなくなってしまった」

 男はくしゃりと髪を掻き毟ると苦笑し、少年を見た。男の青い髪が、光に滲んでいく。

 ──いや、滲んで見えるのは少年を囲む全ての風景だ。少年は目を閉じ、身体が何かに引っ張られていくのを感じ取る。

 男は、目を細めて少年に言った。


「十二年前へ扉が開く──恐れるな。そして誤ってはいけないよ、トルティー……。」



 

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