第20話
「また摩耗会か……」
「つーかよ、摩耗会がそんな意味の分からん道場なら何で人がいっぱい入ってくんだよ?日本でもトップクラスの規模の道場だろ」
「騙されたんだよ」壮は言う。
「オイラは母ちゃんとずっと二人で生活してきたんだ。母ちゃんは一生懸命働いてるけど、それでも貧乏で.....オイラはずっとカンフーをしたかったんだ。でも、家の状況を考えたらそんな事は言えなくて」
理は真剣に聞いた。自分よりも半分位の人生しか送っていない少年が語っている。理は人生の先輩として、カンフーをしている同志として耳を貸した。
「でもある日、学校の友達から誘われたんだ。『格安のカンフー道場がある』って」
「それが摩耗会だったわけか」
壮は首を縦に振る。
「確かに入会費は無料でこのカンフー服も貸出してくれたり、最初はよかったんだ。でも」
「でも?」
「一年経った時だ。道場からありえない額の請求が来た」
「どういう事だ、そりゃ」
「道場使用料、カンフー服貸出代、色んな名目で多額の請求をしてきた。でも、そんなの聞いてないって師範代に言ったんだ。けど、『契約書にサインをしただろ』って」
ありきたりな詐欺。見えないように契約内容を書いているパターン。
普通、契約書は軽く目を通してサインしてしまうもの。そんな油断をつく罠である。
「オメー馬鹿か。そんな時はとりあえず弁護士か警察だろ。サインだって場合によっちゃ適用されない可能性だってありそうじゃねーか」
理の言っている事は憶測である。確証はない。しかし、対応としては間違っていないものと考えられる。
「意味がないんだ」
「は? 何でだよ」
「師範代は警視総監の親族らしいんだ。だから犯罪行為も揉み消しにされている」
「.....」
ありとあらゆる策を個人がこうじたとして、警察という組織に勝てるわけがない。下手をすれば命を狙われる危険性だってある。
「そんな所、さっさと辞めちまえ。それが一番だろ」
「『退会費』が要るんだ」
詰み。
どこをどう逃げても絶対に無理。
八方塞がりとはこのことである。
「でも、払えないもんはしゃーないだろ? 最終的にどうなる?」
「最終的も何もないよ。死ぬまでずっと金をむしり取られ続けるんだ。でも、『月例大会』で勝てばなんとかなるかもしれないんだ」
参加費五万円の『月例大会』。これになんのメリットがあるのだろうか。
「『月例大会』は五万円かかるけど、順位に応じて賞金が貰える。金を稼ぐ場所なんだよ」
「その賞金ってのは参加費から出されるのか?」
「うん」
つまり、一人で稼げない額でも、全員から少しずつ集め、それを総取りすれば稼げる。頼母子というやつである。
こんな腐りきったシステムに理は腹が立った。
よくよく考えてみたら壮を摩耗会に誘った友達も金をもらっていたのではないだろうか?
『勧誘料』のような名目で金を渡す。そうすることで門下生は周囲の者を摩耗会に引きずりこもうとする。
考えれば考えるほど、抜け目のない体系。
他に何か方法は無いのか。
「でもよ、あんな大人数で勝ち上がるなんて難し過ぎるだろ。師範代でも簡単じゃねぇ」
「『月例大会』ともう一つ、金を稼ぐための手段がある」
「なんだよ、それは」
「師範代との決闘だ」
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