第5話
その一撃は渾身だった。
拳を少し回転させて突破力を上げていたはず。しかし、女の片手一本で受け止められてしまった。
理は完全に動きが止まる。掴まれた右手をふりほどくことをせずに立ち尽くす。
「何? このパンチは」
茶髪の女が理の拳を引き寄せもう一方の腕を彼の顔面へめり込ませた。
手が顔についた瞬間、理は我に帰った。防御せねば、と。
首を回して出来るだけパンチの勢いを殺そうとした。だが、こんな事で死んでしまうような威力ではなかった。理の上半身は後方へ吹き飛ぶ。
自分ではどうすることも出来ずに転がり続ける。木にぶつかることでようやく停止した。背中に伝わる鈍痛に苦しみながら理は女を見た。
が、そこに女はいない。
「反応がいちいち遅いんだよ、アンタ」
声をかけられて初めて女が自分の真横にいるのを知る。とっさに腕を上げて追撃を防ごうとするが彼女の回し蹴りは理の腕ごと首を捉え、再び彼を弾き飛ばした。
今度は地面を掴むようにして何とか体勢を崩さずに済ませた。土が爪の中に入り込んでいるのを感じる。
――なんつー力なんだ。女じゃねぇ。
「アンタ、その程度の実力で私に喧嘩売ったの?」
ゆっくりと歩きながら女は近付いてくる。女の服は未だホコリ一つついていない。対する理の服は泥だらけであちこちが擦り切れている。
「まだ.....だ!」
理は立ち上がると同時に駆け出す。そして、もう一度全力の拳を彼女に繰り出す。
今度は受け止めずに女は
理は笑った。
彼は空を切った右手をそのまま伸ばしきり、左足を踏み切った。宙に浮かんだ彼の体は横に一回転をし、左足の踵で女の顔面を蹴った。
もろに入った理の攻撃。常人ならこれで気を失っている。しかし、
「体術は結構鍛えてんだね。
――は?
なんで喋れてるんだ。と、思うと同時に全身に連打を浴びる。その一撃一撃がとてつもない威力。距離をとろうとするが服の襟を握られているので身動きが取れない。
理は自力で立つ力を失い、その場にうずくまる。無防備な彼に残り一発を入れれば確実に仕留められる。だが女はそうしなかった。それはきっと圧倒的な実力差から生じる余裕がそうさせたのだろう。
「アンタには足りない」
理を見下すように女が吐き捨てる。
「何が、だ?」
声を絞り出した。
自分の思考では処理しきない事が立て続けに起こった戦闘の中で、理は訊くという選択肢しか選べなかった。
「アンタには
「
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