十章 ⑧『教会襲撃』

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「ま、言葉の通じる相手じゃねぇよな。あんた人を殺すのが平気みたいだし」


「てめぇも同類だろが!」

 藤原君が牙をむきだして吠えた。それからなくなった右手の先を若君に向け、四天王に命令を下した。


「ぶっ殺してこい!」 


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 藤原君の背後から四天王が一斉に跳躍した。両端のクサナギ君とアラガワ君が身を低くし、中央通路を弾丸のように走りだす。その姿はあまりに早く、残像のつながりが見えているだけだ。クサナギ君の手にはナイフ、アラガワ君の手には包丁……二人は左右から挟み込むように若君に迫った。


 それと同時にマザキ君とゲンジ君はベンチの背に飛び乗り、さらに天井に向けて跳躍した。もちろん普通の人間が飛び上がれる高さではない。しかし二人は軽々と飛んだ。そして天井にぶつかる直前にクルリと体を反転させ、天井を蹴ってさらに加速度を増し、弾丸のように真上から若君に襲いかかった。マザキ君の手にはナイフ、ゲンジ君の手にはナックル……その刃が銀の鋭い残光を引く。


 四人は広がった網のように、同時に若君の間合いに殺到した。逃げられるとすれば後ろだけだ。だが若君は正面を見据えたまま、まだ動かない。


「それでワシを捕らえたつもりか?」

 若君は日本刀を正面に構えた。

「ゆくぞ……」

 寸前、


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 次の瞬間……


 ベキッ!


 ものすごい音がした。


 若君の日本刀が、左から走ってきたアラガワ君を正面からとらえていた。刃を返してはいるが、その鋼鉄の固まりは横向きに、アラガワ君のたるんだお腹にしっかりとめり込んでいる。その一瞬、時間は完全に静止し、若君の姿も凍りついたように静止して見える。


「でえぇぇぇい!」


 若君は気合いとともに刀を振り抜いた。再び時間が流れ出し、音や光景が洪水のように流れ出す。突っ込んできたアラガワ君の巨体が、ふりぬかれた刀身の勢いそのままに逆方向に空中を吹っ飛んでゆく。


 だがそれを見届ける間もなく若君の姿が消えた。


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 次の瞬間……


 若君が残像をかすませ、クサナギ君の真横に出現する。クサナギ君が若君の真横を高速で走り抜けたまさにその一瞬。


 若君は腰を落としながらクルリと反転する。反転しながら、日本刀を横に薙いでゆく。身体の動きとともに日本刀が長い弧を描き、鋭い銀の光跡がクサナギ君のわき腹にすべりこんでゆく。


 バキッ!ボキッ!


 刀がクサナギ君のわき腹にめり込んで、容赦なく肋骨を叩き折る。走っているクサナギ君の身体がカクンと、横にくの字に曲がり、一瞬で白目をむいて気絶する。その一瞬だけが雷光のように浮かび上がる。


「でえぇぇい!」


 若君が刀を振り抜くと、意識を失ったクサナギ君の体がベンチを巻き込み、その破片とともにゆったりと空中を漂い流れ出す。だが、それを見届ける間もなく、再び若君の姿が消失する。


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「強い……」


 あたしは若君の戦いに心を奪われる。


 その残酷で美しい光景に目を奪われる。


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 瞬間……


 再び若君が現れる。今度はマザキ君の真下。マザキ君は加速度をつけ、天井からミサイルのように迫っていた。若君はその下に立ち、マザキ君を見上げた。


 再びゆっくりと流れだした時間の中、若君は少し腰を落とした。同時に刀の先をすっと下ろし、それから伸び上がるようにして刀を斜めに切り上げた。

 長く延びた刀身が青白く輝き、マザキ君の突きだしたナイフと交錯する。刀は触れただけで簡単にナイフの刃を折り、その刃がくるくると空中を漂う間に、返した刀は正面からマザキ君の胸にゆっくりとめり込んでゆく。


 バキ……バキバキ!


 マザキ君の身体が一瞬刀の上にクタリと乗った。


「でええぇぇいっ!」


 若君が刀を振り抜くと、マザキ君は落ちてくる以上のスピードで、天井へと打ち上げられていった。


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 そして最後の一人……


 ゲンジ君は地面に到達し、無人の床に拳をめり込ませたところだった。そのすぐ後ろに若君が出現した。


 ゲンジ君はゆっくりと若君を見上げた。だが同時に右の拳を若君に向けて突き上げていた。おそらく戦い慣れた反射神経なのだろう。だが……


 若君は左手一本でその拳をやすやすと受け止めた。その拳をつかんだまま、右手一本で日本刀を振りおろす。鋼鉄の塊が、鎖骨から肋骨までゆっくりと骨を砕きながら、肩に深く沈みこんでゆく。そして……


「でやぁっ!」


 若君の怒号のような気合いとともに、ふたたび時間の洪水が押し寄せる。


 バキバキッ!


 ゲンジ君の骨が何本も折れる音が響いた。ゲンジ君はどこにも吹き飛ばず、その衝撃を全身で受け止めることになった。ズシンと鈍い音が響き、その衝撃でゲンジ君の周りの床から亀裂が稲妻のように四方へ伸びた。


 そしてぶわっとホコリが舞った。

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