若君は吸血鬼

関川 二尋

第一章 若君のお目覚め

一章 ①『若君とあたしのこと』

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 あたしの名前は内羽さつき。14歳。中学二年生。もちろん女の子。


 学校の成績はよくない。授業はいつもきちんと聞いてるけど、ただおとなしく聞いてるだけ。内容はさっぱり分かんない。先生のためにいつも『ふむ、なるほど』という顔で聞いてるけど、たいていは勉強と違うことを考えている。


『まだ三十分もあるな』とか『授業中はどうして時間がゆっくり流れるんだろう』とか『いや、時間が実際にゆっくり流れることもあるのかな』とかそんなこと。


 自慢するわけじゃないけど、あたしは中学に入学すると同時に勉強を完全にあきらめた。普通に字が読めて、足し算引き算さえできれば、あたしの人生ではそれだけで充分なのではないかと。


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 性格はいたって普通。明るくもないし、暗くもない。

 ただ人付き合いは苦手だし、人に合わせるっていうのも苦手だから友達も少ないし、当然、クラスでの人気もぜんぜんない。

 でもあたし的にはそれでオーケー。まぁそれを寂しいとも思わないところに問題があるのかもしれない。


 ついでに告白しておくと、あたしは美人じゃない。最初は「プリンセスに近いところにいるかな?」などと、うぬぼれていた時期もあったけれど、今はそれが誤りだとはっきり自覚している。


 ちなみにそれを自覚したのは幼稚園生のころで、考えてみればそのころからあたしは、少し冷めた人間になったような気がする。


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 こんなあたしの唯一の特徴は、あたしの家が由緒正しいお金持ちっていうこと。あたしの家はずいぶん昔から地元では有名な家柄だし、ヒイじいちゃんの代からは地元で唯一の総合病院を経営(っていうのかな?)している。


 家はとにかく無駄に広い。家そのものも立派で大きいけど(お屋敷って感じ)、敷地がまたばかみたいに広い。

 敷地の中には丘があって、森があって、竹林があって、真ん中には川まで流れている。さらには離れの家が二件、蔵だって三つもあるし、車ならベンツばかり三台もある。もちろんガレージも倉庫みたいに大きい。


 世間的には、あたしは大金持ちのお嬢様というわけ。

 でもこれはあたし自身とは全く関係のない特徴。むしろ重荷になることが多い。


 ま、あたしってそんな感じかな。


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 次に若君のこと。


 歳はたぶん四百歳くらい。でも見た目はかなり若い。三十歳くらいとは思うんだけど、男の人の歳はよく分からない。

 中学生のあたしから見ると、おじさんの一歩手前ぐらいの感じ。でも確実に実際の年齢よりは若く見える。


 身長はかなり高い。お父さんも背だけは高いけど、それよりもさらに高い。背筋がスラリと伸びていて、普通に立っていてもかなり迫力がある。


 それから顔。若君の場合はとにかく顔。目鼻立ちが整っていて、実に美しい顔をしている。肌は大理石みたいに白くて冷たい感じだけどそれが美しさをまた際立たせるみたい。まず同じ人間とは思えないかっこよさだ。


 女の子なら誰でもあこがれるプリンスって感じ。

 ま、実際は殿様なんだけど。


 でもとっても疲れる人。一緒にいると、あたしはとにかく無駄に疲れちゃう。


 ま、若君ってそんな感じの人。


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 そう、あたしは若君が大のニガテ。

 キライというのではないのだけれど、とにかくニガテ。

 あたしにとってはもうみたいな人。

 でも離れるわけにはいかない。

 一緒にいないといけないのだ。


 というのもあたしと若君の間にはがあるから。

 ちょっと人には言えないような秘密があるから。


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 さて、その若君とあたしがどうして出会うことになったのか?まずはその辺りから書いていこうと思う。

 その出会いはあんまりに強烈だったので、まるで昨日のことのようにはっきりと思い出せる。


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 コトの起こりは……とある六月の、月がとても美しい夜だった。

  

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