2012/12/2の私に一体何があったというのか


 鉛色の首に指を這わす。ざらつく埃に覆われた滑らかな感触。このまま折ってしまおうかと絡めた指に力を込めても、聖母は虚ろな瞳で男を見返すだけ。いや、男のことなんて見ていない。


 彼女は誰も、何も見ていない。誰かに手を貸されることもなく、無様に床に倒れこんだままの、ただの汚れた石膏像なのだから。


 手を離し、埃を払う。足元に散らかるのは、色彩豊かなステンドグラスの破片。天井に描かれている神々と天使の壁画は部分的に残ってはいるが、嘗て吐き気を催した程の美しさは微塵も残っていない。


 綺麗に磨かれていた椅子の半分以上が瓦礫と化し、純白だった外壁は銃創と爆撃によって見るも無残である。


 そんな廃墟となって久しい、嘗ては悩める人間達の拠り所であった教会に佇むのは、神父でも修道女でもない。悩みを抱え、救いを求める人間でもない。本来ならば神聖さとは全くの逆位置で生きている筈の男だった。


「随分変わったな、此処も」


 教会の中を歩きながら、咥えた煙草にオイルライターで火を付ける。紫煙と共に吐きだされた言葉に答え、喫煙を諌める者は何処にも居ない。


 すらりと細い全身を黒で埋め尽くす男。外に出れば、埃臭い風が彼の黒髪を弄ぶ。青白い肌に、人形のように整った容姿。


 辺りを見渡すのは冷たく、何の表情も映さないピジョンブラッドの瞳。


 男は美しかった。しかしそれは決して人目を引くような華やかなものではない。捨てられ、忘れられた街に溶け込んでしまうような、そんな儚く退廃的な美貌だ。


 浮浪者や野良犬、烏や鼠さえ逃げ出した。そんな街に、男はわざわざ独りでやってきた。誰もが見限った街。それでも、活気が溢れていた時代は確かにあった。


 純白の外壁が眩しく、ステンドグラスから降り注ぐ虹色の光が満ちていた頃。吐きそうなくらい美しかった神々と天使達。自分を見下した聖母像。毎日毎日飽きずに祈り続けた修道士達。



 ――彼女が歌ってくれた、あの時間は確かに存在した。



「……これが、彼女の信じた人間達の末路か。愚かしいな」


 短くなった煙草を足元に捨て、ブーツの底で踏み潰す。ふと、記憶に過ぎった声を思い出して、男は屈んで再び煙草を摘み上げる。


 そして、指先から生まれた漆黒の炎で、跡形もなく焼き尽くした。


「……マリア」


 分厚い雲が支配する空を見上げ、男は呼ぶ。聖母を、ではない。神聖なる場所で喫煙を繰り返した自分を口煩く注意した、傍に居た筈の一人の女性を。


「マリア。これが、きみが最後まで願った人間の末路だ。こんな世界で、一体誰が幸せになれるというのだ?」


 男は問う。だが、それに対する答えは、ついに返ってくることは無かった。


 その日は、一日中冷たい雨が降り続いていた。ぬかるんだ地面に、引き摺っていた荷物を放る。水溜まりに混じる、どす黒い紅。


 荷物――放り捨てた時点で、男にとってはただのゴミになったのだが――に空いた穴から溢れる大量の血が、徐々に雨水を侵食していく様をぼうっと眺める。辺りの建物から漏れる光は朧げだが、光を苦手とする彼にとっては邪魔にはならない。


 ただの物取りか、それとも男の美貌に魅了された堕落者か。もしくは、彼に“恨み”を抱く復讐者か。それは


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ……っていうところで止まっているテキストデータを発掘してしまいました。何これ! 何このこっぱずかしいの! 読んだら死ぬやつですか、これがインターネットの闇ですか。検索したらいけないやつですか、都市伝説ですか。


 何より痛々しことに作風が今とあんまり変わっていないっていうね! いや、文章が今より若干気取ってる感じがする……かな? それはそれで恥ずかしいわ!!


 えー、いきなりどうしたのかとご説明させて頂きます。私、今までにカクヨム以外にもいくつかの投稿サイトを渡り歩いてきたのですが、これはその中でも一番最初に登録していたところにあったものです。最終更新日の日付はタイトルの通り。2012年なので四年前くらいになりますかね。


 それにしても、何でしょうねこれ。悔しいことに何を書きたかったのか全然思い出せないんですよ。それは……一体何なんだよ、おい。


 本当は覚えてるんだろ? って思われているのでしょうか、本当に覚えていないんです。嘘じゃないんです、本当なんです。え、何なら逆に皆様はこれが何なのかご存知ですか??(錯乱)


 とりあえず、このイケメン気取りの野郎には神聖な教会にゴミ持ってくんなって膝付き合わせて小一時間程説教したいですね。ちなみに、このテキストの題名は『ああああ』でした。んー、多分このイケメン気取りのお名前ですね。ドラ●エの主人公かよ。己のズボラさを初めて呪いました。


 まあね、思いっきり黒歴史だけど、せっかく見つけたのにそのままにしておくのもこのイケメン気取りの野郎が可哀想な気がしましてね。いっそのこと晒してみたわけです。文頭を一文字下げたくらいで、他の部分は四年前から何一つ修正していません。


 これで少しは供養になるかな? 個人的には今夜の夢に出てくる確率が跳ね上がった気しかしないわけですが……











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