シナリオの運命

栞奈

第1話 神側の相談は残酷

 ここは天界。世界の裏側と地球をつかさどっている場所である。今は、殖えすぎた悪魔と堕天使だてんしを減らすべく、大戦争を起こそうとしている神様たちの話し合いの最中だ。というか神様なのだから、悪魔たちなんて簡単に殺れそうである。いやそうして欲しい。神様たちの事情に我々人間を巻き込むなんてどうかと思う。しかし、神様たちは地上に降りられないので、地上に造られた悪魔たちの本拠地、ブラッドディックを破壊できない。だから、人間に押し付けることにしたのだ。


「この子にされますか?」

「そうね...でもこの子、まだ1歳よ?魔力をあたえて戦わせるのは早くないかしら?」

「別に1歳から戦い始めるわけじゃないですよ。それに仲間もいますから。」

「...それならいいわ。この子にしましょう。少し複雑な運命を辿たどることにはなるけど...」



そう、こうなったのにはふかーい訳があるのだ。


時は紀元前にさかのぼる。世界ができたとき、もう一つ世界が創られた。そこには世界の裏側(チート界)という名前が付けられた。そしてこの世界が創られると同時に、ソウルシステムができた。ソウルシステムとは、救われた魂は天使へ、救われなかった魂は、悪魔になるシステムのことだ。まあ、この話はさておき、なぜチート界と呼ばれるか説明しよう。この世界の人類の初めは地球と同じだった。しかし、この世界のアダムとイヴは禁断の木の実を食べなかった。なので、それぞれに能力が与えられた。そののちに人が殖え、全ての人が能力を持つようになった。この能力のおかげでチート界と呼ばれるようになった。


そして、人が殖え、死に、これを繰り返すうちに救われなかった魂がどんどん悪魔へ変わっていく。数年たち悪魔達が多くなってきた頃、悪魔に中心的存在が現れた。大悪魔ルシファーだ。こいつが世界にのさばり、人々に悪影響を及ぼし始めた。困った神様達は、世界の裏側の人間に討伐?を頼むためのシナリオをつくった。その主人公に当てられたのが、彼女だ。


 こうして、世界の裏側に生まれた1歳の少女は、神様達の軽い相談で運命がきまった。この子には特殊な能力がついているため、神様たちはこの子を選んだ。大きくなり、この事を知った彼女はこう思うだろう。「いくらなんでも、簡単に決めすぎでしょ!?」と。そして人を殺さなければならない、残酷な運命を呪うだろう____。



 少女は7歳になった。しかし、まだ幼いうちから魔力をもっていたので、まわりから恐れられていた。だから、友達がひとりもいない。親からも遠巻きにされていた。この世界の人々はみんな一つずつ能力をもっていたが、この少女のように魔法が生まれつき使えるものはいなかったからだ。親は魔力が暴走するのがこわくて、娘を広いお城に預け、閉じ込めた。

 それから、少女はしゃべらなくなった。親は迎えに来ない。そう分かってから、心を閉ざしたのだ。誰が何と言ってもしゃべらないし、笑わない。まるで無表情の人形のようになってしまったのだ。なので、お城の人々も少女を疎遠した。そして、なにもしゃべらないのをいいことに、7歳の少女をよってたかっていじめた。少女の心は傷付き、深い穴が開いた。彼女は誰にも必要とされない自分の存在を、疎ましく思い始めた。自分は、いったい何のために生きているのだろう...と。普通7歳の少女がこんなことを考えるだろうか?少女の心は闇に染まっていった。こんな幼いときから。少女は一体どうなるのだろうか?このまま、闇に染まってしまうのだろうか....?

 しかし、そんな少女にも心の休まる場所があった。黄泉越し川だ。この川は、その名の通り冥界を通り越して地球に生まれるための川だ。少女はこのことを知らないが、黄泉越し川から出る心を洗浄する蒸気が心地よいので、一日中ここにいたりする。何も知らない世話係達は、この川に突き落としてしまおうと考えた。普段から疎ましく思っていたので、この川の前にいるときが絶好の機会だと思ったのだ。世話係の一人がそっと近づき、少女を川に突き落とした。少女は半分溺れながら、魔法で助かろうと必至でもがいた。しかし、いくら魔法を使えるとしても、黄泉越し川からは出られない。少女は、あっという間に地球に転送された。

 一方、世話係たちは驚いた。なにせ、少女が消えたのである。驚かないはずはない。少女がいなくなったのはいいのだが、消えた理由が説明できない。もともと、勝手におぼれて死んだ事にしようとしていたからだ。死体がないのでは、理由にならない。世話係たちは、今更のように少女を突き落としたことを悔やんだ。しかし、もう後の祭りである。このあと、結局この世話係たちはクビになってしまった。


 


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