第1232話 魔王の慢心

「となると、何故パスワードを共有するという面倒な手段を……いえ、其の該当データ自体が元々この施設に記録されていたものであり、他のデータとそもそも根本的な部分で異なっていたとしたら考えられなくは無いわね」

「ああ、だが該当するデータルームは何れも上の方の階にある、今から其処に向かうには時間が掛かり過ぎだ。

だからといって転移妖術を使えば直ぐに行けるが敵の真っ只中に飛び込んじまうかも知れねえ、此処は地下の調査を優先した方が良くねえか?」


星峰の分析を受け、他のデータルームにパスワードを使用する可能性がある事は分かったものの、直後の八咫の発言により現状で其の場所に調査に向かうにはリスクが大きいという事も共有される。


「八咫の言う通り、現状でデータルームに向かうには時間やリスクが有りすぎるのは確かだよ。

だから僕達は地下の調査を優先するべきだというのは分かる、只、もしこのパスワードが本当に該当するデータルームで使用するのだとしたら彼等が行き詰まってしまうのは明らかだ。

だから何とかして彼等にこのパスワードを伝える手段を確保出来れば良かったんだけど」


八咫の発言を聞いた天之御は少し残念そうな、悔恨を感じさせる表情を浮かべてこう告げる。


「という事はつまり、現状コンスタリオ小隊と連絡を取る手段が無いと?」

「そういう事だよ、彼等の使っている無線機と僕達の無線機は周波数が違うから直接通信を繋ぐ事が出来ない。

それに連絡妖術も彼等に受信する術が使えない以上今は使えない」


空狐が天之御に問いかけると天之御は更に残念そうな、且つ悔恨を感じさせる表情になる。


「確かに……通信妖術は送り手と受け手がそれぞれ術を使える必要がある、今までは魔神族同士でしか通信をしてこなかったから気付かなかったけど種族を超える共闘というのはこういう難しさもあるんですね……」

「恐らくブントは其の点に対応した通信機器又は通信術を使える様にしているんでしょうけど、此方は其の点においては圧倒的に遅れを取ってる。

ここに来てそれが響いてきましたね……」


天之御の言わんとしている事を理解し、岬と空狐も其の心中を察したのか表情が少し曇る。


「こういう事態も想定して彼等との連絡手段を確保しなかったのは怠慢だね……これまでは司令官を通じて通信していたから僕の中に慢心が出来ている事に気付けなかった」


天之御の表情が更に悔恨を増した物になる、だがそんな天之御を見た星峰は


「いいえ、コンスタリオ小隊と連絡を取る、いえ、正確に言えば取れるようにしておく手段はあるわ」


と其の不安を吹き飛ばすような笑顔を浮かべて言う。

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