第871話 偽りの自然

「だとしたら、この偽りの自然で育てられているのは……」

「単なる実験台……そして災いを齎す忌まわしき兵器だよ」


岬が動揺した声を出すと涙名は明確にこう告げる。


「これだけ様々な兵器を作り出し、そして実験出来る施設を備えているとなるとブントは……いえ、もしかしたらブントの背後には相当な暗部がありそうね」

「何か今更って感じもするけど、後も色々出てくるとその危険性を改めて感じざるを得ないわね……」


星峰の警戒心に満ちた声に対し、空狐が少しおちゃらけているような、そうでも無いような声で返答する。

だがその声に対し星峰が特に反論したりする事は無かった、その真意を知っている、気付いているということなのだろうか。


「さて、それじゃ調べてみる?この偽りの自然の空間を」

「その方が良さそうね、もし、この自然が特定の環境をベースに再現されているのだとしたら、今後ここで会った兵器がもしブントに再現された場合にも戦い易くなるかもしれない」


天之御と星峰がそう告げると星峰は手元の端末を操作して扉を開け、その扉から一同は偽りの自然が犇めき合う空間へとその足を踏み入れる。

その中は一見すると兵器の実験場とは思えない程静か且つ穏やかな空気が漂っていた。

だがその穏やかさは入った直後に岬が言った


「静かな空間ですね……ただそれだけであれば良かったのかもしれません。

ですがここは……静かすぎます」


という一言で直ぐ様不穏な空気を持った静けさである事が分かる。


「ああ、これだけ静かだと本来であれば生命の生きる音が聞こえてきそうだ。

だがここからは何も聞く事が出来ねえ。

明らかにこんな自然はありえねえ、生命の息吹や音色を感じる事が出来ねえ自然なんか明らかに可笑しすぎる」


八咫はそう言って明らかに不満と怒りを抱いた発言を口にする。

自身の出生故にこうした自然には許せない部分があるのだろうか。

だが、この偽りの自然に怒りを抱いているのは八咫だけではなかった。


「本来であれば、自然は生命の心を癒やす為の存在でなければならない筈……なのにそれを兵器の為に作り出して利用するなんて……」


そう口にした空狐も同様である。

自身の一族が働いた悪行を思い出すのか、空狐の口調も又刺々しく鋭い物になる。


「空狐……」


それを察したのか、星峰が何処か思う所があるような口調を発する。

だが空狐の事情も分かっている為、それ以上言葉を続ける事が出来ない。

その事実は星峰の内心に僅かな、しかし確実なジレンマを抱かせる。

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