第840話 疑念渦巻く中で

「彼等もブントに対する疑念を抱き始めてくれましたか……嬉しい事です、きっと殿下も、そして星峰様も希望となることでしょう」


キャベルの司令官はそう告げるとその場から去っていく。

一方、コンスタリオ小隊は


「まさかキャベルの司令官に話を聞かれるとはね……」


と、やはり驚きを禁じ得ない様子だ。


「ええ、これで万が一外部に情報が漏れてしまったら……」

「その心配はねえんじゃねえか、もしそうなら俺達には誰が出処なのか一発で分かる訳なんだから迂闊な事はしねえだろ」


不安げな声を上げるシレットに対し心配ないという口調で返すモイス、だがその説明は確かな説明力があり、決して根拠が無い訳ではない。


「確かにモイスの考えにも一理あるわね、それに只でさえ今は人族部隊の士気が低下している状況だもの、迂闊な事をして更に士気を下げる様な事はしないと思うわ」


コンスタリオもモイスの考えを肯定しそれに同調する。

それはその内心に


「それに、もしかしたらキャベルの司令官は……これはまだ確定事項ではないけど、その可能性を考慮して調べてみる価値はあるわね……」


と、キャベルの司令官も又魔神族側、いや魔王の協力者ではないかという疑念を抱いているが故でもあった。

その疑念が的中しているのは知る由もないが。


「それにしても、今後人族部隊はどの様に動くつもりなんでしょうか?」

「西大陸まで陥落し、更に現地に残っている部隊が居る事は程なく判明するでしょうね、そしてその部隊が魔神族に協力しているという仮説が経つのもそう遠い話ではない。

だけど現状他の大陸に攻め込む程の戦力の余裕は無いから、暫くは防衛戦力を固めつつ、魔神族の出方を伺う。

戦場の鉄則に従えばこんな所になると思うのだけど……」


シレットの疑問に対し返答するコンスタリオ、だがコンスタリオ自身も又現状に対して疑念を抱かずにはいられない。

何しろこの状況そのものが既に、少なくとも開戦当初の状況からすれば考えられないことである為である。


「何れにしても待つしかねえって事か……」

「いえ、今の内でも出来る事はあるわ」


少し不満げな声を上げるモイスに対しコンスタリオは出来る事があると告げ、部屋の通信端末を起動し、文章通信を作成し始める。

その宛先は勿論と言うべきか、スターに対してであった。


「成る程、スターに対して現状を伝えて連絡を取るという訳ですね。

確かにこれは今の時点でも可能です」


シレットが明確な賛同意見を示すとコンスタリオも静かに笑みを浮かべる。

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