第806話 足りない何か 深まる疑念

「良く見てみろよ、この部屋、何かが足りねえだろ」


八咫にそう言われ、改めて岬が周囲を見渡す。だが


「足りないって、何も……あっ!!」


とすっとぼけた発言をしかけるがそこで気付いたのかふとこれまでとは違う声を上げる。


「そうだ、此処には管理システムの端末が存在していないんだ」


岬が気付いたと悟った八咫は足りない物が何なのか明確に口に出す。

八咫の言う通り、この部屋には装置の管理システムらしきものは存在していなかった。

それは先程八咫が侵入した部屋と同じ状況であった。


「俺が此処に来る前に潜入した場所にも此処と同じ様な人造生命を生み出す装置がある部屋があった。

だがその部屋にもなかったんだ、装置を管理する端末らしきものが」

「成る程、だから八咫は気付いたって訳ね。

けど、それって何か可笑しくない?」

「ああ、確かに可笑しい」


八咫からその事を聴いた岬は納得した表情を浮かべるが、同時に新たな疑問も浮かんでくる。

その疑問は八咫も内心に抱いていたらしく


「管理する端末が別の部屋にあるのなら何故そこの兵士が迎撃部隊を差し向けてこなかったのか……という点だよな」


と口にすると岬は首を縦に振る。


「人造生命を生み出す貴重な部屋を誰も監視していないとは思えない、ましてや管理システムが別の部屋に存在しているのであればその部屋から誰かが監視しているのと考えるのが妥当な線よ。

そうでないと不測の事態が起こった際に対応出来ないもの」

「その事を踏まえると考えられるのはその監視している兵士に何か不測の事態が起こったか、それともそれ自体が何らかの罠なのか、その辺りって事になるな」


八咫と岬の疑問は更なる疑念を生み、その次の疑問へと考えを巡らせていく。


「とにかく、その疑問の答えを出す為にも此処に長居するのは時間の無駄だな。

早く次の部屋に向かおうぜ」

「そうね、それが一番いいと思うわ」


そう告げると八咫と岬は部屋の外に出て移動を開始していく。

だがその内心で岬は


「もし前者の方だとしたら彼等が……コンスタリオ小隊が何かしたの?そう考えれば妥当な線にはなるけど……」


とコンスタリオ小隊が此の件に何らかの形で関わっているのではないかという疑念も抱いていた。

一方、そのコンスタリオ小隊はというと司令塔内部を移動し、指揮官の居る場所を目指していた。


「流石に内部が広いですね……此の広さも技術の自慢なのでしょうか?」

「あるいは敵を迷わせる為か……何れにしろ報告には不親切ね」


シレットの呟きに対し、コンスタリオは皮肉や不満と言える返答をする。


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