第769話 散らされる兵器

このエリアに接近してくる途中、八咫は涙名と空孤から自爆する兵士が現れた事について聞いてはいた、それ故に兵士や兵器の動きに違和感を覚えたのだ。


「兵士ですら自爆要員に使う様な連中だ、兵器を自爆させるなんて事を考えるのは造作もないと思ったが、実際にやってくるとはな……」


被害を防ぐ事が出来たとはいえ、八咫の内心には怒りが込み上げていた、それは命を無駄に、粗末に扱うブントに対しての怒りが改めて再燃してきた事を意味していた。


「フン……兵士よりも生産が容易な兵器を自爆させるというのは戦術上有効な手立てでしょう?

それに対してあれこれと言われる筋合いはありませんよ」


指揮官がこう告げると八咫はそれ以上何も言わずに俯く。

それを見た指揮官が


「おや?最早言葉を続ける気力も無くなったと言う事ですかな?」


と得意気に見下した発言をするがその直後に上空から黒い槍が無数に降り注ぎ、指揮官とその背後に控えていた兵士、兵器を串刺しにする。

その速度は圧倒的であり、兵士も兵器も指揮官も只見ているだけの間に貫かれていた。


「……それ以上口を開くんじゃねえよ……」


俯きながら八咫はそうぽつりと呟き、指揮官に対し静かな、しかし大きな怒りを抱いている事を改めて気付かせる。

その光景を眺めていた兵士は何を言うでもなく只その場に立っていた。

八咫にかける言葉がどの兵士も見つからなかったからだ。

少しの間の重い沈黙が流れた後、その沈黙を破ったのは


「さあ、このまま進撃する」


と言う他ならぬ八咫本人であった。

その言葉を受け、八咫率いる魔神族部隊は要塞への接近を再開する。

その内心では


「星峰……殿下……貴方達の所にも出てきているのですか……」


と普段の八咫からはとても創造出来ない口調での不安が過っていた。

一方、その内心で名前が浮かんでいた星峰と天之御は螺旋階段の様な所を駆け上がっていた。


「思ったより手古摺ったね……皆無事だといいんだけど……」

「空孤達はそんな簡単にやられる程軟じゃないのは天之御が一番知っている筈でしょう、私達は空孤達を信じてやるべき事をやりましょう!!」

「ああ……そうだね!!」


螺旋階段を駆け上がりながら星峰と天之御はこう会話をかわす。

その周囲に他の兵士は見当たらない、どうやら二人だけで行動している様だ、最も戦場である以上、二人でデートしていると言う訳でもないが。

そのまま駆け上がっていくとやがて出口が見えてきたのか明かりが差し込んでくる。

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