第749話 決まる覚悟

そのまま両者は顔を見合わせる事こそしなかったものの、転移妖術を発動させた後に指揮官と兵士は天之御達に対して敬礼をしていた。

その敬礼に嘘偽りは感じられない。

そして転移妖術が終わり、一同がその場から姿を消した後に兵士の一人が


「宜しいのですか、指揮官……」


と不安げな声を上げるとその指揮官は


「ああ、今回の一件で私も腹を括った!!」


と強い覚悟を感じさせる大声で言う。

だがそれはただ大きなだけの声と言う訳では無い、声だけでなく、その奥に秘めた覚悟も確実に大きなものであると感じさせる、そんな声であった。

一方、転移妖術でブエルスに帰還した天之御達も又、今回の一件について当然の如く話し合っていた。


「気になる先史遺産の遺跡だとは思ったけど、こんなに早く問題を引き起こしてくれるなんてね……流石に計算外だったわ」

「それは僕も同じだよ、もう少し気を配っておくべきだったかもしれない。

まあ、それは今話しても詮無い事だ。

それよりもこれからの対策を考えよう」


星峰と天之御の表情は少し沈んでいるように見える、やはり今回の事を未然に察知出来なかった事を少し悔いているようだ。

天之御は前向きに考えようとするものの、それでもその言葉にはショックを隠しきれていない。


「自由自在に地上に出入り口を作り出す先史遺産……もし他にもこんな物が存在していたら大変な事になりますね。

しかも星峰の見立てでは起動していないだけで既にその遺跡に足を踏み入れている可能性もないとは言えない」

「ええ、ただ、もしそうだとするなら何故今の今まで起動していないのかという疑問は当然浮上するわ。

あの遺跡だけに仕掛けられているのだとしたらあの遺跡には相当防衛しなければならない何かが眠っているのかもしれない」

「そしてそれを目覚めさせるような事をブントがやらかしてくれた、或いは意図的にやらかした、そんな所か」


岬、星峰、八咫がそれぞれの意見を述べると涙名は


「だとするとあそこの調査には相当な準備を整えて臨んだ方が良さそうだね、迂闊に突っ込むと更に事態を悪化させかねない。

今は大型兵器で止まっているけど、もしそれ以上の兵器が量産されていたりしたら地獄絵図になる可能性もある」


と今後についての意見を述べ、天之御も


「その可能性は十二分に考えられるね、あの遺跡について、今は手を出さない方が良いかも知れない」


と涙名の意見を肯定する。


「遺跡についての意見は纏まったけど、今回の疑念はもう一つある」


そう口火を切ったのは天之御ではなく涙名であった。

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