第750話 異端者の存在
「人族部隊の司令官について……でしょう」
星峰がそう口にすると涙名は首を縦に振って頷き、星峰の呟きが正しい事を伝える。
「あの指揮官、ブント側の兵士にしては色々と妙な点があった。
兵器に対する立ち向かい方も全力だったし、何より僕達を始末しろと言っているに等しい上官からの命令を無視するなんてブントだったら考えられない。
いや、そもそも人族部隊として考えても妙だ」
「ブントも一枚岩ではないと言う事……と言ってしまうのは簡単だけど、どうもそれだけじゃないような気がするわね。
もしかしたらあの指揮官は本気でこの世界の平和を願ってブントに加担しているのかも」
「だから組織の歪みに毒されていない?」
「そう考えれば辻褄は合うわね、そしてそうした人物がいると言う事は此方にとって希望となる」
涙名、星峰を中心とした指揮官に対する疑念は概ね指揮官がブントらしからぬ行動をとっているという点で一致する。
それについて天之御は
「彼の言葉にも嘘があるようには思えなかった、その点も踏まえれば涙名や星峰が言っている希望になってくれる可能性は十分に有り得る。
只、そんな人物をブントが放置しておくとも思えないという点が気掛かりだ」
と希望を抱きつつも懸念も同時にある、そういう雰囲気を漂わせる。
「うん……何しろ今回の一件で命令違反という格好の処分材料を与えてしまった訳だからね。
下手をするとそのまま処分するなんて事もブントなら十分にやりかねない」
涙名も懸念を口にする。
恐らくは指揮官の口から今回の命令違反が出てきた時から気にしていたのだろう、その口調からは十二分に心配が感じられる。
「その件に関しては私の方からブントのデータベースに探りを入れてみるわ。
ブント側の兵士であれば何か彼について情報が得られるかもしれない」
星峰がそう口にすると涙名の心配が僅かに揺らいだのかその表情に仄かにではあるが笑みが浮かぶ。
やはり双方の信頼に由来しているのだろう、その表情を見て天之御は
「星峰と涙名の表情、いい関係だね……そこに僕も……」
と微笑ましく思いつつも軽い嫉妬心も覚えていた。
「兎に角、今回の一件であの遺跡の危険性がはっきり分かった以上、これ以上野放しにしておくわけにはいかない。
とはいえ、直ぐに仕掛けられるわけでもない……だから皆、警戒だけは絶対に怠らないで!!」
天之御はそう声に出して忠告し、その流れで一同はそれぞれの部屋に戻る、だがその直後に天之御は
「やれやれ……嫉妬心を誤魔化す為に大声を出すなんて、魔王らしく……いや、僕らしくなかったね」
と軽く自己嫌悪を覚えていた。
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