第736話 帰路の中で

その場から立ち去っていく飛空艇に敬礼をした後、現地部隊は森の中へと引き返していく。

一方、飛空艇内のブリッジにはモイスとコンスタリオの姿しかなかった、シレットはそこには見当たらない。


「シレットの様子はどう?」

「部屋で寝かせています、あの様子だと疲労は相当なものでしょうね」


コンスタリオの問いかけにモイスはこう答える。


「モイスの時はここまでは疲労しなかったのに……」


少し不思議がるコンスタリオに対しモイスは


「ですが俺の場合、あらかじめある程度訓練していた為に体が備わっていたという可能性もあります。

今回のシレットはいきなり能力が覚醒した、言わばそれは日々ウォーキングの日課も無いのにいきなりフルマラソンを完走させようとするようなもの、そう考えるとシレットの疲労も最もです」


と経験者の視点からシレットの様子について語る、その語りは確かな説得力を持ち、それ故にコンスタリオはそれ以上話を続けることは出来なかった。


「そうね……で、どうしてそんな現象がいきなりシレットに起こったんだと……」


コンスタリオが次の言葉を言い切る前に飛空艇は拠点へと帰還する。

それは一瞬の出来事であり、そういう訳では無いのだが今のモイスとコンスタリオには飛空艇が急いで戻りシレットを休ませて欲しいと伝えているように見えた。

それを確認したコンスタリオは


「モイス、貴方はシレットを自室に連れて行って、私は今回の輸送対象を運び込んでから例によって司令官への報告に向かうわ」


とモイスに告げ、それを聞いたモイスは


「了解、流石にこの状況で全員で報告に向かっている余裕はありませんからね」


と返答する。

そしてその言葉通り飛空艇から降りたモイスはシレットを担ぎながら自室のほうへと向かっていき、コンスタリオは輸送対象の運び込みを近くにいた兵士に依頼し、自身は例によって司令室へと向かっていく。


「おや、今回はコンスタリオさんだけなんですか?」


部屋に入って早々司令官はそう尋ねてくる、何時も三人揃っているので余程不思議に思った様だ。


「ええ、シレットが負傷してしまって部屋に戻っています、そしてモイスはそれに付き添って……」


コンスタリオはこの部分だけを告げる、全てをこの司令に告げるのは得策ではないという考えが脳裏のどこかに過った為である。


「そうなんですか……心配ですね」


近くにいたアンナースがそう告げるが、それに対しコンスタリオは


「ええ、幸いにも命に別状はないので今はそっとしておいてあげたいんです」


と告げる、だがその口調は何処かアンナースを牽制しているようにも聞こえる。

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