第704話 守られぬ残虐

一方、銃弾を撃ち落とした星峰が民間人族に近付くと親子の親は


「ど……どうして魔神族が私達を……それに防衛部隊は、今の兵器は!?」


と混乱した口調を並べ、安堵と恐怖の入り混じった顔で星峰の顔を見る。

その様子からブントの構成員という訳ではなさそうである、そう思った星峰は


「魔神族にも色々あると言う事ですよ、そして人族にもね」


と端的な回答を述べるに留める。

此れ以上この親子を混乱させるのは忍びないと思ったからだ。

その返答を聞いた子供は


「あ、ありがとう」


と素直に感謝の言葉を告げる。それは純粋であるが故に出てきた言葉なのか、それともそうでないのか。

其れを考える余地も今の彼等には与えられなかった、近くで又しても爆発音が聞こえてきたからだ。


「今の音、シェルターのある方向だ!!まさか……」


救助した民間人の父親らしき人族がそう告げる。


「シェルターの方から爆発音!?と言う事はまさか……」


豊雲がそう口にすると同時に一同は爆発がした方向に走り出す、その脳裏に嫌な予感が過ったのは極自然な流れではあった。

だが同時にそれが外れていてほしいという願望も抱くものの、現地に到着するとその願望は無残にも砕かれる事となる。

爆発のあったシェルター付近は先史遺産の兵器が蔓延っており、その周囲には兵器によって撃たれたと思われる民間人族が何十、何百人という単位で負傷していた。

その負傷は酷く、場合によっては既に手遅れではないかと思える人族も一人や二人の話ではない。

負傷していない民間人族も泣き叫んだりパニック状態になっていたりして阿鼻叫喚状態であり、破壊された周囲の建物も含めて正に地獄絵図と呼べる光景であった。


「酷い……これは幾等何でも酷過ぎる……」


これまで先史遺産の問題に数多く係わって来た筈の霊諍ですらその光景には動揺を隠せない、それ程までにその光景は酷い物であった。


「こ、これじゃ私達は……」


先程の親子の表情にも絶望が見える、だが其れを見た星峰は


「いいえ、まだ絶望に沈むには早すぎです!!狐妖術……桃色の桜蘭」


と叫び、その場に居た先史遺産全てに桜の花弁の様な物を吹き付け、其れを吹き付けられた先史遺産の兵器は全て機能を停止させる。


「これで兵器の蹂躙は抑えられた……けど」


星峰の活躍により先史遺産は機能を停止するものの、負傷者が多数出ているこの暗く重い空気が当然晴れる訳も無く、一同は沈痛な思いを抱える。

周囲を見渡しても穴が開いていたり赤く染まっていたりで気が休まる事は無い。

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