第633話 疑問の深淵

「そう、其処が一番の疑問点であり、私が引っ掛かっている部分なの。

組織のトップである魔王がその能力を持っているにも関わらず何故それを前面に押し出した戦術を取ってこないのかという点が」


モイスが口に出した疑問に対し、コンスタリオは自身も又その点を疑問に思っていると言う事を口に出す。そこにシレットが


「自由自在には扱えない……という線はありませんね。そんな妖術を自分自身に対して使うなんて魔王が考えるとは思えません、少なくともある程度任意で扱う力は得ていると考えていいと思います」


と付け加える事でその疑念は益々深まっていく。


「ええ、既に魔神族が転移妖術をある程度任意で使え、しかもその使い手が組織の上層部に居るのだとすれば今の今まで活用してこないというのは考えられない」


コンスタリオがそう告げるとモイスとシレットは顎に手を当てたり腕を組んだりし始める。自分の中で考えを纏めているのだろうか。

すると不意にシレットが


「……もしかして今回の襲撃は魔王とは関係のない形で行われたのではないでしょうか?」


と口にする。その口調は自分でも何を言っているのか……と言う事を感じさせるような疑問に満ちた声であり、自信は感じられない、だがコンスタリオは其れを聞き


「可能性としては考えられなくはないわね、もしかしたらあの魔神族部隊の裏側に潜んでいるのは魔王ではなく、スターが言っているこの戦争の裏側に潜む存在なのかもしれない」


とシレットの仮説を肯定する。


「だったら戦争の裏側は魔神族側に居るって事か?それなら……」


モイスはそう何かを言いかけるがそれを遮る様にコンスタリオは


「安心……というのは早すぎるわよ、この戦争の裏に潜む連中が人族と魔神族両方の裏側に潜んでいる可能性は十分考えられるわ。そして、もしそれが事実だとしたらそいつらは……」


とモイスが短絡的な思考に至らない様に牽制する様な言葉を発し、其れを聞いたモイスは


「人族と魔神族が入り混じった組織って事か……想像すると色んな意味で腹立たしいな」


と少し苛立った口調で話す。その苛立ちは裏に潜む存在に向けてなのか、言葉を遮ったコンスタリオに対してなのか、それとも短絡的な思考に陥りかけた自分自身に対してなのか、そのどれともとれる。


「そうなってくるとこれまでの魔神族の襲撃が本当に魔王の指示で行われていたのかどうかも怪しくなってきますね。

中には魔王の指示によるものもあるんでしょうけど……」


シレットが呈した疑問は嘗てのコンスタリオ小隊であれば考えもしない事であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る