第632話 転移妖術の疑念

「問題は中央があの技術の導入に踏み切った事よ。一度使った以上もう躊躇いなく中央はあの技術を用いた兵士を生み出すわ。

今はまだ彼等に知られていないからいい、けど万が一彼等に知られたら……」

「間違いなくその刃は私達に向けられる、そうなるでしょうね」

「それにあの技術は本当に制御出来るものなのかどうかも分からない……

先史遺産の遺跡の中にはあの技術を用いた為に壊滅したと思われる遺跡もあるのに……」


アンナースと司令官の会話は続く、アンナースの口調は荒れは少し収まるものの、それと入れ替わる様な形で今度は不安げな低い声が漏れる。


「アンナース様……そこまで……」


司令官は内心で不安を募らせるものの、あえてアンナースにそれを伝える事はしない、否出来ないというべきだろうか。


「……まあ、今回の一件で魔人族が転移妖術を持っている事を彼等に伝える事が出来たのはせめてもの救いね。これで彼等が警戒心を強めてくれれば……」


アンナースはそう発言し、今回の一件が悪いところだけではないという事を司令官に告げるものの、その様子はそう発言する事で自分自身にそう言い聞かせようとしているようにも見える。

だが彼女達は気付いていないがその妖術を知った事でコンスタリオ小隊はアンナース達の予想とは違う警戒心と疑念を抱いていた、それを証明するかのように同時刻コンスタリオの部屋では


「転移妖術は既に完成している……?」


と言うシレットの声が響いていた。


「ええ、以前オアシスの地下で魔王、そしてその配下と交戦した時の事を覚えている?」

「覚えているも何も、忘れたくても忘れられねえよ、あの屈辱的な……」


コンスタリオの問いかけにモイスは苦々し気な口調と表情で応える。それを見たコンスタリオは


「そうね……だけど思い出してほしいのは交戦した時の最後、魔王達が私達に止めを刺さずに何処かに移動した時の事よ」

「そう言えばあの時……魔王と軍の幹部らしき配下は明らかに瞬間移動で私達の目の前から移動していましたね……」


コンスタリオの発言で何が言いたいのかは理解したシレット、シレットが理解を示してくれたと思ったコンスタリオは


「ええ、あの時魔王が用いた能力が仮に転移妖術だとすれば既にその技術は完成している。しかも実用可能な形で」


と自分が何を言いたいのかを告げる、だがそれを聞いたモイスは


「一寸待ってくれ!!それだったらどうして奴等はそれを前面に出した戦術をとってこないんだ?」


と疑問を投げかける。

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