第577話 一枚岩でなくとも

「となると、先日の湖の移動妖術通路も恐らくは此処に出入りする為に作られた物……やはり野放しには出来ないね」


天之御が静かな、しかし確実な怒りを秘めた口調でそう告げる。その発言に周囲の面々も静かに頷く、それは今回の一件でブントへの怒りがより増した事の表れでもある。


「なら、八咫にとっては辛い事になるかもしれないけど、此処の端末を調べてみるわね、もしかしたら何か分かるかもしれないから」

「俺の事は気にしなくていい、やってくれ。

俺みたいな思いをする生命がこれ以上生まれちまう方が余程俺には辛い、其れを阻止出来るならどんな結果も受け入れてやる!!」


八咫を気遣う星峰に対し、八咫はその気持ちを汲み取りつつも星峰に作業をする様に促す。


「分かったわ」


八咫の気持ちを受け止めたのか、星峰はそれだけ呟くと直ぐに端末を起動し、内部に記録されているデータを調べ始める。

するとそこには予想通りと言うべきか、この部屋で生み出された生命の記録が事細かに記載されていた。


「やはりこの施設も……ただ、他の施設と違うのは此処では一気に兵士として育成するのではなく、順を追って育成されている……地上世界の生活に馴染ませる為にそれに近い環境で育成する実験が行われていたようね」

「なら、ここに来るまでにあった保育園の様な施設は育成用の残骸って訳?」

「ええ、どうやらここで育成されていたのは純粋な兵士と言うよりは仮面を被る事が出来る兵士の様ね、もしこんな施設が他にあって、そこから出てきたブントの兵士が地上に紛れ込んで来たら厄介な事になるわ」


星峰の分析結果を聞くまでもなく、その事はその場に居る全員が予想出来ていた、だがこうして分析結果を聞くとそれが改めて危険性の高い問題であると言う事を認識せざるを得なくなる。


「なら、八咫はその為に……」

「少なくとも当初はそうだった様ね、だけどブントも一枚岩じゃない、それがこの記録に記載されてる。

どうやら育成を担当していた職員の、少なくとも一部の中に子供に対する情が移り、その結果兵士として育成するのを中止するべきとする意見が出たみたい」


涙名の怒りを秘めた声に星峰が更に続ける、その記録内容はブントの中にも様々な考えがある事を示したものではあるが、かといってそれで静まるような一過性の怒りではなかった。


「なら、此処が襲撃されたのはそのせいで……」

「派閥争いの面もあり、其れもあり、証拠隠滅を図ったという意図もある、色々ありすぎて動機の説明には逆に困りそうにないわ」


岬の発言に対し、星峰は皮肉を込めた様な返答をする。

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