第568話 新たなる影

「どうしてそんな行動を敢えて取ったのか……それも気になるな。罠の可能性も考慮して那智町の部隊にも待機してもらっていたが、結局その線も無かった」


空弧の言葉にそう続ける八咫、この言葉から察するに如何やら先程の迎撃部隊は彼が指揮を執っていたようだ。


「八咫の言いたい事も最もだと思う。そしてその線から考えると可能性が一番高いのは……」

「もしかしたら、この侵攻はブント自身にとっても想定外の事態だったのかもね」


天之御と星峰が告げた言葉に他の面々は思わず耳を疑う。想定外と言う言葉では済まされない事態が起こっている様に感じられたからだ。


「想定外と言うのはどういう事?」


涙名が星峰にそう問いかける。星峰との付き合いが長い涙名でも今回の星峰の発言は理解しきれていないという事なのだろう。それを察したのか星峰も


「例えば今回の侵攻自体は本来行うつもりではなく、元から存在していた転移通路を調査する為に兵器を送り込んだ所結果として侵攻になってしまった。

そういう可能性があるんじゃないかって事よ」


と説明する。その説明を聞き、その場に居る面々は取り敢えず納得したという様な表情を浮かべる。


「確かにそれなら説明はつくな。そして、その仮説がもし当たっているとしたら……」

「ええ、あの施設を拠点にしていた奴等は那智町とも何らかの関わりを持っていたのかも。正確に言えば那智町ではなく、その前に存在していた何かかも知れないけどね……」


八咫が話しかけた際の声は明らかに確信が感じられる声であった。やはり自身が育った町であるが故に何か思う所があるのかもしれない。

それに続く星峯の声も八咫に釣られたのかどこか確信を持っている、そんな印象があった。


「となると、那智町の方も調べる必要が出てきそうだね。否、この場合寧ろ那智町を先に調べた方がいいかも知れない」

「そうね。那智町の方は私達にもある程度の援軍が存在している。詳細が分からない施設に行くよりはリスクが少ないわ」


天之御の発言に星峰も納得、同意し、他の面々も頷く。


「そうと分かれば明日にでも調査に向かおう。今日はその為にも早めに休息をとる様に」


天之御はそういうとその場を解散させ、各自休息を取る様に告げる。

その直後星峰に対し八咫は


「星峰……ありがとな」


と聞こえるか聞こえないか分からない様な小声で呟く。そしてそのまま自室に戻ると


「那智町とブントの関係、それに先史遺産まで絡んできたか……俺も腹を括らねえとな」


と何か覚悟を決めた様な言葉を呟く。

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