第553話 イェニーの遺産

だがその直後に空弧が


「一寸待って下さい……確か前回調査した時はそこはまだブントに制圧されてはいなかった筈ですよね」


と指摘した事で星峰と天之御以外の面々は一瞬はっとした表情を浮かべる。だが天之御は


「うん、その筈なんだけどね……でも確認出来た建物の風景を見る限り、それはもう疑い様の無い事実なんだ。となると考えられる線は……」


と改めてそれが事実である事を語り、続けて星峰も


「私達が知らない間に、少なくともそのエリアの制圧は許してしまった……そう考える他無いわね」


と言葉を続ける。何時もの様に冷静に見えるが、その言葉の裏には気付けなかった事に対する悔恨が少なからず感じられるようにも思える。そんなトーンの言葉だった。


「となると、奴等はワンカーポの奪還に向けての準備も進めているんじゃねえのか?」


八咫がそう指摘すると天之御は


「その可能性も考えられなくはないけど、もしそうだとするなら何故今回投入した戦力をワンカーポ側に差し向けてこなかったのか、その点が疑問として残る。その理由について考えられるのは……」


と疑問点を提示しそれを聴いた涙名は


「ワンカーポの奪還にはそもそも、或いは少なくとも現時点では関心がないのか、それとも手にした技術を持て余しているのか、考えられる線はそのあたりだと思うけど……もしかしたらそれ以外に何か想像もつかない理由があるのかも」


と告げる。


「何れにしても長く放置して置く訳には行かないわね。可能な限り早く対処する必要があるわ」


星峰がそう告げると他の面々も頷き、今回の一件が放置出来る事ではない事を改めて確認する。


「この事は既に豊雲にも伝えてある。そしてその報告によると現時点で地下からのブントの襲撃は確認されていないという話だよ」


天之御がそう伝えると一行は取りあえず現時点でワンカーポが襲撃を受けていないと言う事については安堵の表情を浮かべる。


「だけど……一体どうやってブントはあの施設に入り込んだんだろう?あの地下施設に対して全く気付かれずに入り込むなんて……」

「もしかしたら、イェニーが何かを残していたのかもしれないわね。今回の作戦で用いてきたような転移魔術の様な物を」


涙名がふと呟いた疑問に対し、星峰は明確な回答を返す。それが一番可能性が高いパターンである事は検討するまでもない事実であった。


「まだそうだと決まった訳じゃないが、厄介者は遺産も厄介事を引き起こしてくれるな」


八咫が皮肉を込めてそう呟く、だが他の面々にはその呟きはイェニーではない何か別の存在に向けられている様にも聞こえていた。

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