第519話 その可愛さは偽り

何処かへと転移した一同はそこがどの様な場所なのか周囲を見渡す。すると周囲は薄暗い森の中である事は分かった。だがその森には緑は無い。

草木が枯れているのではない、草木は存在しているがそれに色がついていないのである。黒か良くて灰色としか言い様がないその草木はまるで悪夢の世界を表現している様であった。


「何なのここ……今まで調べてきたどんな場所とも雰囲気が違う……まるで悪夢の世界に足を踏み入れた様な、そんな感じがするわ」


その風景には星峰ですら困惑を隠せない。更に


「それに空気も寒々しい……例の靄が常に立ち込めている様な感じです。あの兵器たちが通常より強化されていたのはこの濃度の濃い靄の影響かもしれません」


と空弧が告げ、一同の内心に一抹の不安が宿る。


「兎に角、此処でじっとしていても仕方ない、先に進もう」


天之御がそう宣言し、一同が先へと足を進めようとする、だがそれに水を差すかのように目の前に動物が現れる。見た目は兎や栗鼠等可愛らしい外見だ。


「こんな所に生命が……?」


こんな所に生命が居る、そんな光景に疑念を抱く涙名、だがその疑問は考えるまでもなく直ぐに確信へと変わる事になる。目の前に現れた動物はいきなり魔術を放って一行を攻撃してきたからだ。


「つっ!!敵意を感じてはいたけど、やっぱりこういう事になるのね!!」


岬がそう言うと八咫は


「なら此方も容赦はしない、黒羽の射貫き!!」


と言って鋭い矢に変化させた黒い羽根を飛ばし、生命の体を貫く。するとそこから機械部品が零れ落ち、この動物が生命ではなく兵器である事が判明する。


「やっぱり兵器だったな!!まあ、こいつらから感じる悪意は明白だったから疑問に思う程の事でもないが」


八咫がそう告げるとその動物兵器達は


「許さない……奴等を殲滅してやる!!」


と、やはり例の言葉を口に出してくる。だが今回は例の靄が出現しない。否、出現させなくても良いと言う事なのだろうか。


「弧妖術……蒼穹の一閃!!」


空弧がそう言って青色の光を放ち、その光が動物兵器に当たると動物兵器は瞬く間に両断され、その内側にある機械部品を露呈する。その構造はまるでこの森に生息していた動物が兵器にとって代わられた様にも見える。


「動物の……いえ、生命の形をした兵器……一体どうしてあんな物が……」


新たな兵器の姿に対し困惑を隠せない岬、そんな岬に星峰は


「先日遭遇した擬態兵器の発展型、もしくは亜種なのかもしれないわね」


と何時も通りの冷静な分析を告げる。

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