第520話 その目に映るのは荒廃

「街に擬態する兵器が居るのなら生命に擬態する兵器が存在していても不思議はない……って訳か。そう考えると気分が悪くなる話だね」


天之御の言葉には明らかに嫌悪感が感じられた。恐らく先日と同様、兵器に対する怒りの感情が少々ではある物の漏れ出てしまっているのだろう。その様子を見た星峰は口にこそ出さないものの、天之御の内面を心配する。それは全体を指揮する魔王としての能力の心配ではない。天之御と言う生命そのものに対するものである。


「あんな兵器まで作られているとなると、やはり此処には他とは違う何かがありそうだね。もっと進んでみよう」


涙名がそう促すと一同は森の中を歩きだす。それは天之御の心中を察し、このままじっとしていては空気が悪くなるだけと考えたが故の判断でもある。それを知ってか知らずか、天之御は涙名の方を振り向くと密かに笑顔を見せる。

そこから先へ行くと切り立った崖の様な場所が見えてくる。どうやらこの森は高台に位置している様だ。その風景を見て


「この光景、既視感を覚える状況ですね」


と空弧が口にする。すると天之御は


「既視感どころかはっきり覚えているよ。この進み方は酷似してる」


と空弧が何を言いたいのかをより明確にする。そう、この高台の上に転移するというのは先日の遺跡調査の際にも同様の事があったと言いたいのだ。そしてその先には街が存在していた。果たして今回は何が存在しているのか……そんな事を思いながら、しかし良い予感は期待出来ないままに一行は先へと進んでいき、崖の下に広がっている光景を見つめる。


「これは……ここまで同じだとは、以前調査したあの遺跡は此処の構造を基に模倣されたものなのでしょうか?それとも地形的に同じ様な場所が多いのでしょうか?」


崖下に広がる光景を見て岬はこう話す。それに対して星峰は


「そのどちらの可能性も有り得るわね。地形的に止むを得ないのか、それともこの構造が何かしらの利点を齎しているのか。ここまで一緒だとそう勘繰りたくもなるわね。最も、全く同じという訳でもないけど」


と返し、改めて崖下の風景を見つめる。星峰と岬の言う通り、崖下には以前の遺跡調査の時と同じく大きな街が広がっていた。規模的にもほぼ同等かそれ以上であり、それが星峰達の既視感を煽っている。ただ一つ異なる点、街の状態が荒れ果てた廃墟であるという点を除いては。


「酷いな……建物も、何もかもが滅茶苦茶だ……」


只見ただけの状態ですら、唖然とせずにはいられない、それ程の荒廃状態であった。

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