第499話 安堵の一時

「目で見える範囲ではあまり変化は見られないけど、そうでない部分、つまり裏側は明らかに動揺している様ね。ブント側の街からの連絡が滞りがちになっていたり、隊の編成に乱れが生じているわ」


天之御の質問に淡々と返す星峰、だがその発言は今回の一件がブントに少なからず打撃を与えたのを改めて裏付けていた。街中での動揺と言うのはそれを判断するのに十分過ぎる材料だ。


「それで、ブントは今後どう動いてくるか、検討はつくの?」


続けて岬がそう尋ねる。


「現時点ではまだ何とも言えないわね。只、どう動いてくるにしても今回の一件が影響している以上、次は確実に手柄を立てられる状況を作り出そうとするでしょう。

問題はそれにコンスタリオ小隊を巻き込んでくるか否かね」


星峰の回答は明言していないものの、それが逆に他の面々にこの状況を裏付けていた。


「であれば今の内にこちらも先史遺産の調査を進めておくべきでは?ワンカーポの地下においても前回から動きはありませんが、私にはそれが逆に不気味に思えてならないのです」


豊雲がそう発言すると天之御は


「そうだね、そっちの問題も抱えている。先史遺産についてもこの所特に不穏な動きが高まってきている以上放置は出来ない」


と豊雲の意見に賛成する。


「そう言えば今回共闘した松波街の部隊の方々も言っていましたね。今回の作戦先に流れていた先史遺産の技術はブントの中でも機密性の高い情報だと」


そこに唐突に空弧が言葉を差し挿む。その内容に対し


「どうしてそんな機密性の高い情報があるって事が兵士に伝わってるんだ?」


と八咫が当然の疑問を口にする。すると空弧は


「何でもその報告を受けた兵士は優秀な能力を持ち、ブントが引き込もうとしていた事があったらしいの。それで彼を釣る餌として機密情報を上げて高い地位を約束しようとしたらしいわ。

最も、彼はその時既に私達の協力者だったから当然そのスカウトは受けなかったけど……」


と返答する。その返答に一同は納得はするものの、星峰は


「コンスタリオ小隊の取り込みに回りくどい手を使っているのはその一件で失敗したからかもしれないわね。袖の下で上手く行かなかったから敵意を煽り、共通点を作り、そこから取り込もうとする。そこに罅を入れられたのは大きいわね」


と冷静に分析するが、一方で今回の作戦の成功をどこか安堵した、そのような表情も見せる。否、実際安堵しているのだろう。コンスタリオ小隊がブントに取り込まれるのに星峰は耐え難い思いを抱いている。

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