第466話 劣化する生命?

「薬物で強化するという発想は無かったのか、それともそもそもそんな事をする必要が無かったのか、同じ無かったでも後者がいいと思えるね」


天之御が少し冗談めかした口調でこう話す。だがその言葉の、少なくとも半分は本心であった。そしてそれを周囲も理解している為、敢えてそれが冗談めかしていると突っ込む存在は居なかった。それに対し天之御は何処か安堵したような、がっかりしたような表情を浮かべる。何方も魔王としての顔とは程遠い物ではあった。


「この奥のエリアには何があるんだろうか?」


八咫がそう呟きながら部屋の奥に入って行くとそこには多数の訓練機械が置いてあった。それもこれまで見てきた先史遺産より一際機能が強く高く、普通の生命では持て余しそうな機能を多数有していた。


「これまで見てきた先史遺産の訓練施設より少なくとも数倍は優れている訓練機材ですね……これなら薬物による強化は行わなくても良かったのかも」


その機器を見て空弧は少し唖然としたような顔を浮かべ、その顔に釣られたかのような少し間の抜けた声で話す。だがそんな空弧の仮説に星峰は


「確かにそうだけど……これだけの機能を使いこなして身体を強化するとなると相当なレベルの基礎能力が必要になるわ。ここにある機材独自の機能は素人が付け焼刃でどうこう出来る代物じゃない。となると、やはりここの兵士は元から能力が高かったのかもしれないわね」


と肯定しつつも少し懸念が混ざった様な口調で話す。


「つまり、やはり兵士となる生命は決められていたと言う事か?」


八咫がそう問いかけると星峰は


「まだそうだと断定は出来ないわね。ここで生み出されていた生命事態にそもそも今の私達の世界であれば十二分に兵士として通用する基礎能力が備わっていたのかもしれないし」


と続け、更に置いてある機材を調べていく。


「そもそも兵士として通用する……か。だとすると今の世界の生命はこの世界で生きていた生命より身体能力が低下しているのかもね……その理由ははっきりとは言えないけど」


天之御がそう口にすると空弧は


「そうですね……でもどうしてそれだけ優れた生命を生み出せる技術を有していたのに薬物による強制強化に手を出したりなどしたのでしょうか?」


と同意しつつも続けて疑問を口にする。


「その方がお手軽且つ自分たちの思い通りに出来る存在を生み出すのに都合が良かったのかもしれないわね」


星峰はそう両断する様に告げる。その口調からは少なからず怒りが感じられた。

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