第467話 残されない記録

「体だけでなく、心も自分達に合わせて矯正する。そういう事ね」


星峰の怒りを感じ取ったのか、空弧もそう語る。自身の血族の一件がある為か、その口調には星峰と同等の怒りがこもっているように周囲は感じた。


「ここにある機材を使って訓練すれば優秀な身体能力を持つ兵士は多数育成出来そうですね。各地の先史遺産に有るのはここの劣化品なのでしょうか?」

「断定は出来ないけど可能性はあるね。でもここには記録機器が見当たらないよ。どこかに隠されているのか、それとも……」


岬と涙名がそう言って周囲を見渡し、壁なども探すがそこに記録機器は見当たらない。すると星峰が何かに気付いたらしく


「……もしかして、ここには記録機器は無いのかもしれないわね」


と呟く。それを聞いた天之御が


「記録機器が無いって、どういう事?兵士の育成であれば身体能力の記録位は流石にすると思うけど……」


と疑問を隠せない口調で告げる。すると星峰は


「ええ、でもその記録媒体がここにあるとは限らないって事よ。これを見て」


と言い、一同を入り口付近の壁に注目させる。一見するとその壁は何の変哲も無い普通の壁のように見える。だが星峰は見逃さなかった、その壁の一部に何かの機器が埋め込まれていたのを。


「ここに何かの機器が埋め込まれているでしょ。これを見てほしいの」


星峰がそう告げ、壁を指差すと天之御が


「確かに何か埋め込まれてるね……これってもしかして?」


と言い、周囲を見渡す。如何やら何か考え付いたらしく探している様だ。そしてそれを見つけたのか床の一部を注視し、ある部分に走っていく。そこにはブレスレットらしき物が落ちていた。


「ブレスレット?ここで訓練していた生命が所持していた物でしょうか?でもこんな物を身に着けて訓練するのは……もしかして?」


それを見た岬は当初疑問を口にするものの、何かに気付いた様子でその言を撤回する。すると天之御は


「星峰の言いたい事が分かったよ。もし兵士の身体能力がここで記録されて居なかったのだとすれば、兵士はこのブレスレットや何かを身に着け、そこの出入口に備え付けられている機器で出入りする度に記録されていた、そういう事だね」


と言い、星峰もそれに頷く。


「つまり……このブレスレットの中に身体能力を記録する装置が組み込まれているって事か?」


八咫がそう言ってブレスレットを注視するが、その瞬間先程と同じ眩暈のような症状が再び八咫に起きそうになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る