第449話 沸き上がり続ける疑念

「八米街は開戦当初から魔神族の配下にあったエリアだ。そこに何か重要な物があるのなら少なくとも数回は侵攻を試みている筈。何故今になってそれをしたのか、それが分からない」

「そうね。戦力規模から見ても今回の侵攻が戦力を整えての侵攻とも思えない。そうであるなら恐らく私達にも収集がかかっている筈だもの」


モイスの疑念に対するコンスタリオの返答は少々自信過剰気味な部分が見られるものの、少なくとも戦力面からは不可解な面があったと感じたのは事実である。それに対しシレットは


「距離が遠いから……と言うのは理由になりませんね。ここの防衛戦力を動かしたくなかったのかもしれませんが、それにしたって無謀な事をしたとしか言えません」


と別の理由を挙げようとするものの、直ぐに前言を撤回する。その前言に自分自身が納得出来なかったからだ。


「それに今回の侵攻、明らかに二手に分かれていたけど、恐らく本命と思われる部隊が全く地理情報が無い森の方に向かっていったのも気になるわ」

「それは事前に地理情報を入手していたからでは?」


コンスタリオが告げた更なる疑問にシレットは回答を用意する。だがコンスタリオは


「確かにそれは私も思うわ。でもそうだとすると、その地理情報は一体何処から入手したのかって事になるのよ。

さっきモイスも言っていたように八米街は開戦当初から魔神族の支配下にあり、そこから情報を入手できたとは思えない。となると考えられるのは……」


と自身が抱く疑念を続ける。その表情から決してプラスの方向で入手したのではないと推測している様だ。それを察したのか、シレットは


「魔神族内部に裏切り者が居てその情報を流したか、或いは人族領地内の何処かでその地理情報を何らかの形で入手出来たか、この二点が妥当な回答だとは思いますね」


と続ける。マイナスの回答を敢えて先に持ってきたのはコンスタリオがそう考えていると予測したからだ。


「そう言う事になるわね。もし前者だとして、それが純粋に協力してくれるが故の提供であればいいのだけど、そうではなかったとしたら」

「此方にも裏切り者が居て裏取引してるって事か……となるとそいつらは裏取引の連中同士で攣るんで何らかの利益を貪ってるのかもしれねえな」


コンスタリオがその意図を察したのか、前者の場合に想定出来る状況を口にするとモイスもそれに続く。しかしこの問題は考えれば考える程答えが見えてこなくなる泥沼のような状態になりつつあった。

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