第425話 シレットの過去

「一度ならずって事は、まさか……」


その言葉が示す意味はコンスタリオには想像は出来たが、そこから続ける事が出来なかった。否、続けたくなかったと言った方が良いのかもしれない。だがシレットはそれでも話を続け


「最初に襲われ、生まれ故郷の街を追われた私は父方の遠方の親戚に引き取られることとなりました。ですがその三年後、又しても魔神族は私から全てを奪い去ったんです。今度は街ごと……」


と唇を噛み締めたまま話を続ける。その回答をコンスタリオは予想はしていたものの、当たってほしくはなかった。故にコンスタリオにかける言葉も出てこない。


「その後、辛うじてブエルスに到着した私はこれ以上何も失いたくない、その思いから自ら防衛部隊に志願し、そこで皆さんと出会ったんです。ですが……」

「そこから先は言いたくないなら言わなくていいわ。分かっているから」


シレットが口にしようとしているのがブエルスの陥落、そしてスターの消失である事なのは同じ経験をしたコンスタリオには分かっていた。故に先回りするようなことを言ってしまう。だがシレットは


「いえ、続けさせて下さい。だから私には到底信じられないのです。例え一時、別次元の話であったとしても人族と魔神族が共存していたと言う事が」


と続けるものの、その話は明らかに別方向へとずれていた。それ程辛い事だったのだろう。三度も大切な物を奪われたと言う事が。


「だから……感情を抑制出来なかった?」


コンスタリオがそう問いかける。その口調にシレットを責める様な意味はない。只話しただけではある。しかしそれでもシレットは


「ええ……皆さんにご迷惑をおかけした事も承知はしています。もし……」


そう言いかけるとコンスタリオはシレットの手を握りしめる。


「えっ……」


その行動の意図を計り兼ね、困惑するシレットにコンスタリオは


「外れろなんて言わないわ。そして、貴方のその辛さ、私も分かち合ってあげる。同じ小隊なのだからね!!」


と優しさと強さが入り混じったような口調で話す。するとシレットは


「あ……はい、ありがとうございます」


と困惑しながらもその表情には確実に笑みが浮かんでいた。その笑みは安心感に満ちた、母に抱きしめられた子供の様な笑みである。そしてそのまま数分の時が過ぎ、シレットが落ち着くと同時にコンスタリオは部屋を後にする。そして部屋に戻ったコンスタリオはシレットから聞いた話を基に過去の事件を端末で調べ始める。どうやらシレットの身辺に起こった事件を調べようとしている様だ。

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