第396話 南大陸の渦

「ブント製の戦力が急に増強され、しかもそれが南大陸に集中しているとなると、そこに何かあるのは間違いない。もし侵攻目的で増強しているのであればかなり危険な事になるね」


涙名がそう話すのは現在の南大陸の状況からいうと妥当な線であった。現状南大陸の魔神族勢力は大陸の海辺側に集中しており、陸地側に存在する人族部隊から攻撃を受けた場合後退が極めて困難な位置にある為だ。それを聞いて天之御は


「かといってこちらから仕掛けるとそれこそ奴等に侵攻する口実を与える事担ってしまう。だとするとここで取るべき最善の策はこちら側の勢力下にある街から地下を調査する。これになるね」


と今後の大まかな方針を打ち出す。それを聞いて涙名が


「その方針には反対しないけど、一体どこから調査を手掛けるつもりなの?現状の勢力図で言うと……」


と問いかけるとそれに乱入する形で八咫が


「那智街から調査するのが一番いいだろう。場所的にも人族部隊のエリアと比較的近く、街自体の規模もそれなりにある。何か掴める可能性は高いと思う」


と言葉を被せ、更に言い切った口調を出す。それに困惑したのか、涙名は


「えっ……でも……」


と本来であれば反論する理由がないにもかかわらず反論しかける。それだけ動揺が強いと言う事なのだろう。だが八咫の発言に天之御も


「僕もその考えに賛成だよ。と言うより、八咫は初めからこの調査を申し出る為にこの話をしたんじゃないの?」


と言葉を続け、更に八咫に対してどこか揶揄っている様な、そうでない様な口調で話す。それを受けて八咫は


「ふっ、初めから見通しているのに良く言いますね」


と皮肉に皮肉で返すような返答をし、その場から離れていく。


「あ、一寸何処へ?」


岬が八咫に問いかけると八咫は


「現地調査の協力を要請してくるだけだ。いきなり行くのは不味いだろ」


と言って部屋の外に出ていく。その様子が何処か妙であると気付くのに時間がかからなかった星峰が


「今の八咫の様子、ひょっとして八咫は……」


とその場で呟くと空弧は


「ええ、那智街は八咫の生まれ育った町よ」


と話し、星峰の洞察が当たっている事を確信させる。


「だけどあの様子、久し振りの帰省で嬉しいって雰囲気じゃないね」


その雰囲気を感じ取り、その事を口に出す涙名。すると天之御が


「八咫にも色々あるんだよ。僕にも分からない部分でもね」


とどこか歯切れの悪い返答をする。それは明らかに天之御らしくない返答だが、星峰と涙名にとってはそれが寧ろ自分たちの考えを確信させる。

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