第324話 一時の平穏を

「分からない事……か、でも、何れは……」


家族が立ち去った後、空弧はふと呟く。ブントの存在はまだ公にするわけにはいかないからだ。だが呟き終わった後


「それにしても……出入りが制圧前よりも簡単に出来る様になってるなんて、民間レベルではありがたい話なのでしょうけど軍人として考えると少し管理に危機感を覚えるわね……」


と呆れた表情を浮かべながら呟く。そう呟くのも当然であった、民間の人族が出入り自由と言う事は軍人の監視の目に問題がある可能性があるからだ。だが一方で


「でも、それが本来あるべきこの世界の姿なのかもしれないわね……これはどっちが正しいという話ではないのでしょうけど」


とも呟く。空弧自身も、そして天之御も彼に協力する者達も皆少しは違いはあるのかもしれないが同じ気持ちである。空弧はそう思っていた、そう考えたかった。

そんなことを考えながら空弧はふと周囲を見渡す。そこは公園だけあって先程の家族も含めて家族連れ、親子連れが多く、遊具で遊んだり雑談をしたりする人が彼方此方に見受けられた。


「平穏ね……この平穏を永久の物にしたい。その為には私自身も……」


と改めて自身の血族との向き合いを決意するのであった。確証がある訳ではないが、平穏へと向かう為にはそれは避けては通れない、空弧の内心でその事ははっきりと自覚出来ていた。その後空弧は公園を一通り回り、ブエルスの城に向かって歩き出す。そして城に戻った時、時刻は既に夕暮れになっていた。赤い光が照らす城は何処か穏やかで今日という日を締め括るのにぴったりであった。


「空弧、何処に行っていたの?まあ、今日はお休みだから別に構わないんだけど……」


戻ってきた空弧に真っ先に話しかけてきたのは入り口近くに居た星峰であった。


「一寸街で調べたい事があったの。だから……」

「その調べたい事っていうのは西大陸に関わる事なの?」


空弧の返答に鋭い洞察を向ける星峰、その様子にやれやれと言った感じで


「相変わらず鋭いわね、そうよ。西大陸についての事」


と空弧は返答する。

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