第323話 覚えなき再会

空弧の足取りは軽いが、かと言ってどこかに向かう様な様子ではない、明らかに散歩を楽しんでいる雰囲気だった。周囲の街は静かでありのどかである。仮にも敵対勢力に制圧されたと言われても誰も信じない様な空気が漂っていた。


「あれ?あのお兄ちゃん……」


気の向くままに公園に足を踏み入れた空弧の耳にふと子供の声が入ってくる。その声が聞こえてきた方向に顔を向けるとそこには女の子とその両親らしき男女が立っていた。


「ねえ、お兄ちゃん達のお陰なの?パパとまたこうして一緒に居られるようになったのって?」


女の子は空弧の事を知っている様な口振りで話しかけてくるが空弧はこの子に見覚えはない。


「いえ、私は……」


と言いかけてふと気付く。もしかしたらこの子は自分を星峰だと、嘗てのスター・ボレードだと思っているのではないかと。その直後に続けられた


「又この公園でお会いしましたね。ブエルスが制圧されたと聞いてどうなる事かと心配しましたが……」


と話す母親の顔を見て空弧は両目を閉じ、自分の中にあるスターの記憶を手繰り寄せる。すると思い当たる部分があった、この親子はかつてスターがこの公園で出会った親子だった。だがその時は父親の姿はなかった。それが今は一緒に居る、空弧は当然その事に疑問を抱いた。


「ブエルスが制圧された時、私達は辛うじて魔神族の追跡から逃れ、スリーレイクタウンへと向かいました。故郷であるあのタウンは既に人族の手に戻っていましたから。ですがそこの人族は制圧されたはずのブエルスにも普通に出入りしています。

不思議に思って私達も来てみたのですが、以前と変わらない、いえ、以前よりも穏やかな雰囲気さえ感じます。一体どうなっているのでしょう?私には訳が……」

「妻の言う通り、スリーレイクタウンの人族は普通にブエルスに出入りしています。特に審査もなく……私もこの目で見るまでは信じられませんでしたが……」


その疑問を問いかける間もなく、夫婦は空弧に困惑した言葉をかける。色々と物事を考える大人故に娘の様に純粋な見方は出来ないのだろう。そう考えるのに時間はかからなかった。それを聞いて空弧も返答に詰まる。どう返答していいのか分からないからだ。それを察したのか


「あ……いいんです。軍人さんにも分からない事……何ですよね。今はまたこうして家族そろって過ごせるのが一番です」


と母親が言う。その様子はそう口にすることで自分自身に言い聞かせているようにも見える。そしてその家族はその場から去っていく。

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