第302話 アンナースと先史遺産

その声と顔は何時ものおちゃらけた物ではなく、シビアそのものであった。笑みの無い顔、低く響く声に司令の顔も険しい物になる。否、更に険しい物になるというべきだろうか。


「あそこを抑える事が出来れば今後の戦況を一気に覆すことが出来る可能性もゼロではない。そう考えると失敗は許されない」

「ええ、分かっています。ですが……」


アンナースの険しい言葉を受け、指令は思わず言葉を止める。その内心で何かを考えているのは想像に難しくなかった。


「分かっているわ。想定外の事態が生じる可能性は常に存在している。しかも魔神族が既にオアシスの地下について承知しているのであれば黙って見逃してくれるとも思えない。既に交戦した形跡があるというのなら」


司令の内心を察したのか、アンナースの言葉の険しさは少し和らぐ。その言葉にどこか安心感を司令は覚える。余程普段の彼女が怖いのだろうか。


「それともう一つ、兵器が言葉を発したというのは本当でしょうか?」


少し間を置いた司令の口から不意に質問が飛び出す。


「あり得るかあり得ないかで言ったらあり得るの方に私は賭けるわね。先史遺産については手元にある物でさえ解析出来ていない部分の方が圧倒的に多い、機械がしゃべるどころか機械に魂を移植する技術が存在していたとしてもさえ不思議はないわ」


アンナースは平然とそう答えるがそれに対する司令の反応は無く、ただそのまま立っていた。


「何よ?今の発言がそんなに変なの?」


司令の反応に不服なのか、食って掛かろうとするアンナース、それに対し司令は


「いえ、不服なのではありませんが……なんというかその、アンナース様がそのような意見を述べられるとは思っていなかったので……」


と弁解しそれを聞いたアンナースは


「まあ、先史遺産については私も私なりの学習はしているもの。この手に収めきる為にね」


と返答し司令に微笑を浮かべる。


「さて、これから忙しくなるわね」


アンナースはそう呟くと部屋を後にする。その頃、自室に戻ったコンスタリオも又今日の一件について考えていた。

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