第289話 操り人間

だがそれを聞いた星峰は


「名乗らないんじゃなくて名乗れないんじゃないの?」


と挑発的な口調を返す。その言葉に反応したのか、その女の顔が一瞬ではあるが確実に歪みを見せる。


「だったら……何だというの?」

「別に何も言わないわ。ただ名前すらない存在が組織への忠誠心を持っているのが少し可笑しいと感じるだけよ」


女に対し尚も挑発的な口調を続ける星峰、それを聞いた女の顔も徐々に確実に歪んでいく。


「その口調……この状況が見えていないの?お前達は……」


その女の口調が示す通り、後ろから迎撃部隊が徐々に迫りつつあった、だが


「見えているよ。だからこそこの会話をしていたのさ!!」


天之御はそういうと転移妖術を発動させ、その場から自信を含めた一同を離脱させる。


「何!?くっ……しまった……」


女は今まで一番の顔の歪みを見せるとすぐさま攻撃態勢を取るがその体制が終わった頃には既に転移は終了していた。


「あの女狐……データにあったブエルスの陥落に関わった奴ね。これはあの方達に報告の必要性ありと」


顔の歪みを戻しながら女はそう呟く。一方、転移妖術で離脱した天之御達はそのブエルスへと帰還し今回の一件について話し合う。


「結局あの女は何だったの?禄でも無い奴だというのは分かったけど……」

「断定は出来ないけど、指揮官としての能力を与えられた作り出された存在、それが一番可能性が高いわ」


空弧が女についての話題を出すと星峰が即回答する。


「指揮官としての能力を?そんな事が……」

「今回入手したデータの中にもあったわ、ヒューペットのより効率的な運用のために指揮官能力を先天的に持たせた個体の製造に成功したと。どうやらこのヒューペットというのが生み出されている人族の総称の様ね」


自身の考えの根拠について語る星峰、淡々としているようだがその言葉の中には少し、だが確実に怒りが感じられた。そしてそれは天之御をはじめとする他の面々も同様であった。

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