第279話 奇妙な風向き

「妙?急にどうしたの、八咫」


八咫の呟きに理由を尋ねる岬、すると八咫は


「ここは地下でしかも両側に壁があるんだが、このエリアに入った後風の流れが妙なんだ。一方に流れてる筈の風が分岐して、まるで隙間風でも吹いてるような……」


と答える。その隙間風という言葉に反応したのか、星峰、涙名、天之御が周囲を見渡し始める。そしてある方向に涙名が駆け寄ると


「砕きの黒爪!!」


と言って爪を黒く染め、その染まった爪で壁を攻撃する。すると壁が崩れ、その奥から新たな通路が出てくる。


「これは……更なる隠し通路?」


岬がそう呟くと涙名は


「うん、八咫の言った隙間風はこの通路の存在が原因で吹いていた物だったんだ。最も、本来はスイッチか何かで開閉するんだろうけど」


と少しお道化た様な口調で話す。だがその顔は全く笑っていない、この先に何があるか分からないという不安なのか、それとも……


「兎に角、探し物が見つかったのなら好都合だわ、早く行きましょう」


星峰がそう告げると一同はその通路の奥へと入って行く。その通路も雰囲気は今までいた場所と変わらないがそれが逆にこの通路と先程までの通路の関係性を表している様に一同には感じられた。そして暫く進むと一同の目の前に人族が数十人現れる。だがその目に輝きはない。


「人族……しかもこの集団形成の仕方、目の輝きの無さ……これはもう」


星峰はそういうとその人族に接近し手にした剣で一刀両断にしていく。そして星峰が剣をしまった次の瞬間、人族から血飛沫が飛び散りその場に倒れこんでいく。


「ねえ、星峰、今のはやっぱり……」

「ブントが作り出した人族兵士でしょうね。あの生気のない目、あれは……」


涙名の問いかけに対する星峰の返答が全てを物語っていた、そして後ろを振り返ると星峰は苦々しい顔で血飛沫の後に目をやる。星峰にはそれだけが人族が生きていた唯一の証に見えていた。

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