第218話 消せない復讐心

「と言う事はやはり、今回の一件で貴方の気持ちが何時も以上に高ぶっているように見えたのは私の見間違いではなかったのね」


岬の返答に星峰は今回の一件で感じていた疑問を口に出して問いかける。その問いかけに岬はただ黙って頷く。だがそれでも岬が何を言いたいのか、少なくとも星峰にはわかっていた。


「安心して岬、私はその事で別に貴方を叱責したりはしないわ。私でも故郷が絡んだら冷静ではいられないと思うから」


星峰のその言葉に天之御は密かに星峰の顔を見る。その脳裏には星峰が仲間に加わる前、嘗てスター・ボレードだったときに幼少期を過ごした家で残されていた鍵を開け、彼女に選択を促した時の光景が過っていた。正確には否が応でも過らざるを得なかった。星峰の脳裏にその一件が浮かんでいるであろうことは想像に難くなかったからだ。


「天之御様の言う通り、私は西の大陸にある今はもう無い街の生まれ。そしてあの兵器は私の故郷を焼き払った忌まわしき兵器。あの日、何時もの様に平穏な日常を過ごしていた私を突然の戦火が襲ってきたの」

「突然の戦火……と言う事は岬の故郷は戦争からは少し離れた街だったの?」


自らの過去を語りだす岬、途中で差し挟まれた空弧からの問いかけには


「そうだと思う。でも幼い私には治安の事、政治の事はまるで分っていなかったから断定は出来ないわ。そもそも、外の世界が戦争をしているということ自体、どこか遠い世界の様な感覚だったもの。でも、あの日それが一瞬で砕かれた。

あの忌まわしい兵器は私の故郷を、家族や親友を薙ぎ払った。私は只泣き崩れていたわ。そして気が付いたら先代魔王様に助けられていた」

「父上に助けられた?」


なおも続く説明に今度は天之御が言葉を差し挟む。その言葉にも岬は


「はい。街を襲撃してきた部隊を退ける為に駆け付けたものの、一足遅かったが故に私を助けるのが精一杯だった、先代魔王様はそうおっしゃっていました。そして数年後、私は魔王軍にその縁で加入したのです」

「襲撃してきた部隊に復讐する為に……?」


続いて言葉を入れたのは星峰だった。その言葉に岬は


「ええ、同時に願わくば街を救いたいとも思っていたわ。でも街は既に焼き払われ、存在そのものが消されてしまっていた。私はその悔しさをばねに徹底的にあの襲撃の事を調べ続けたの。そして分かったの、ブントの存在とあの襲撃の黒幕がそいつらだったって事が」


と続け、自らの行動動機が復讐心に基づいている事は認める。


「だからあの兵器に対して冷静さを欠いていたんですね……」


そう問いかける豊雲に岬は


「ええ、どうしてもあの時の記憶が蘇ってしまうの……」


と自身に不甲斐なさを感じつつもそう返答する。

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