第208話 矮小な欲望
「それを敢えてしないのか、それとも出来ないのか」
涙名がそう呟くと同時に応接室の扉が開き、魔神族が中に入ってくる。そして入ってきた魔神族は
「これはこれは魔王様、来訪されるのであれば事前にご連絡いただければ相応の準備を致しましたのに……」
と天之御に話しかける。その様子は如何にも胡麻を擦っている様に見え、ある意味では狡猾、またある意味では滑稽ともとれる。
「急な来訪で迷惑をかけた事は謝罪するよ。でも当然、僕は観光をするためにここに来たんじゃない。最近君達の配下の部隊が何か慌しく動いている様だけど何かあったの?」
天之御はあくまで気になる事があるからという体で指揮官に質問を投げかける。その質問に指揮官は
「ええとですね、最近人族部隊の活動が活発になってきていまして、まだ此方への侵攻までには至っていないのですが何時来られてもいい様に警備を強化しているのです。それと、人族部隊が何かを捜索しているという情報もありますのでその対象を先に捜索するという目的もあります」
と饒舌な返答を返す。だがその場に居た全員が見逃していなかった。質問を受けた瞬間、指揮官が明らかに動揺を見せていたのを。
「人族の行動と関連性があるのかどうかは分かりませんがこの所近くの火山活動も活発になっており、もしかするとその活動に乗じて何かを仕掛けてくる可能性もありますので警戒しているのです」
動揺が続いているのか、指揮官は聞かれてもいないのに話の続きを始める。それを聞いた天之御は
「分かった。なら僕達が火山を調査してくるよ」
と指揮官に提案を持ち掛ける。しかしその提案に指揮官は
「え……しかしそれは……」
と難色を示す。だがそれをみた天之御は
「この調査で燃え尽きるような魔王ならその程度の存在だったって事だよ。だから調査は僕達が担当する。それにいきなり来訪して迷惑をかけたお詫びもしないといけないしね」
と言い、指揮官をやや強引に押し込める。その気迫を感じたのか指揮官は
「は、はい……」
とだけ返答して黙り込み、そんな指揮官を尻目に一同は応接室を、そして基地を出て近くの火山へと向かう。街を出た直後、八咫は
「今の指揮官も恐らくブント側なんだろうな。大した事は無さそうだが」
と呆れた様な、笑いを堪えている様な声で呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます