第139話 魔王の悔恨

「光学迷彩車が全て止まったよ!!さあ、反撃開始だ」


星峰と空弧の行動の結果を見た天之御がそう叫ぶと町の防衛部隊は一斉に反撃に出始める。対照的に主力であった移動車を欠いたブント部隊はその勢いの前に後退を余儀なくされ、瞬く間に追い込まれる。


「……つっ、このままでは押し込まれる」


後方に構える部隊長らしき人物がそう呟くまでもなく、既にブントは押し込まれていた。それを直に見る事となったその人物は


「くっ、止むを得ん、後退する」


と言って兵士達に後退を呼びかけるがその上空から八咫が現れ


「俺達から逃げられるとでも思っているのか!!」


といい、その背後に回り込む。それから間をあける事無く周囲を防衛部隊が取り囲み、ブント部隊は完全に身動きが取れなくなる。


「ちっ、だがここで捕まる位であれば!!」


その人物はそういうと何かを取り出そうとするがその前に天之御が


「魔王妖術……縛りの霧!!」


と言ってブント部隊の周囲に白い霧を発生させる。その霧に包まれたブント部隊は次々と力なく崩れていき、取り出そうとした人物も例外ではなかった。そして霧が晴れた時、その人物達は転移妖術によって拘束されたのか既にその場から消えていた。


「これで敵部隊は退けられましたか。ですが……」


岬はそういうと町の方を見つめる。所々が破壊され、負傷した住民、兵士も見られる。そんな岬の顔を見た防衛部隊兵士は


「ええ……ですが、この位なら復興出来ます。住民が全滅してしまった訳ではないのですから!!」


と胸を叩き発言する。その言葉は何度も修羅場をくぐってきた自信に裏打ちされている様な頼もしさがあった。いや、様なではなくそうなのだろう。少なくとも星峰と涙名にはそう感じられた。


「そうだね、なら僕達はこれ以上被害を出させない為にもさっきの部隊の技術解析と情報収集を行おう」


天之御はそう告げるとその場に居た全員に転移妖術を使い、ブエルスへと帰還する。そして帰還直後、その場に居た豊雲が


「ど、どうなりました?」


と少し心配そうな声で聴いてくる。それに対し天之御は


「侵攻を食い止める事は出来たよ。でも被害を完全に防ぐ事は出来なかった」


と少し落ち込んだ表情を見せる。やはり悔恨は捨てきれていない様だ。それを察したのか、豊雲も


「そうですか……それでは私は任務に戻ります」


と告げてその場から移動し、それ以上何かを聞く事は無かった。

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