第75話 同じ様で違う物

翌日、星峰はブエルスの自室で目を覚ます。体の違いによる多少の差異はあるものの、目覚める寝具も、窓から差し込む光も以前と変わらない。変わらない筈だがそれでも何処か違う部分があると感じずにはいられない。そう思う星峰であった。


洗顔、朝食を終えると星峰は中庭に向かう。嘗て法皇と、そしてルイナと共に見つめていた中庭、しかしそこに当然その二人の姿は無く、ただそよ風が吹いて緑を揺らしていた。


「星峰?ここで何してるの」


そこに向こう側から空弧がやってくる。


「空弧・・・いや、一寸ね・・・」


どこか歯切れの悪い返答になってしまう星峰に


「・・・やっぱり、思う所はあるわよね・・・」


その心境を察し、あえてそれを否定しない声を空弧はかける。


「魔神族として、天之御に協力する。それは揺るがない決意よ。でもこうしてみると、やっぱり消す事は出来ないわね」


中庭を見つめ、何処か自己嫌悪的な口調で話す星峰、しかし空弧はそんな星峰に対し


「消さなくていいと思うわ。記憶はそう都合よく消せるものでもないし、もし消せるのだとしたら天之御の様に強い意志を以って戦う事も出来なくなると思う。消して楽になる方を選んじゃうから」


と自説を述べ、星峰を否定するような事はしない。空弧が否定してくると何処かで思っていた星峰は意外そうな顔を浮かべる。


「意外?魔神族がこういう事を言うって?」

「・・・ううん、意外って訳じゃないわ。ただ、空弧の今の言葉、何か過去にあった様な、そんな気がして・・・」


星峰の顔を見た空弧は考えられる問いかけをするが星峰はそれが本心であるとわかっていた。だからこそその背景に何があったのか、それが気になったのだ。


「今すぐには知る事は出来ないかもしれないけど、いずれ分かるかもしれないわ」

「何それ?意地悪?」


意味深な発言をする空弧にくすっと笑って返す星峰、だが空弧は


「いいえ、意地悪ではなく言葉通りの意味よ。入れ替わりの妖術、あれは対象先の記憶も引き継ぐことが出来るの。最も、強く意識をしなければ対象者の記憶が流れ込んでくることはないのだけれど」


と真剣な表情で返し、それを聞いた星峰もハッとした表情を浮かべる。


「私は星峰の記憶も持ってる。同様に星峰も私の記憶が潜在意識の中であるの。もし星峰が私の記憶を知りたいと強く願えば私の記憶を知る事が出来る」


そんな星峰に対し更なる補足を行う空弧、それを聞いた星峰は柔らかな表情で


「やり方まで教えてくれてありがとう。でも今は止めておくわ。そもそも人の過去に首を突っ込むのは品が無くて嫌なの」


と告げる。


そのまま通り過ぎようとする星峰に


「ねえ・・・城下町を案内してくれない?」


と空弧は誘いの声をかける。

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