自殺した僕は異世界に3人しかいない変革者の4人目になることに決めました

一人暮らしの大学生「三丁目に住む黒猫ミケ

プロローグ

僕は瞼を開いた。そこには床や壁などは存在しない宇宙空間だった。


「ここは……」


「やあ、起きたのか。藤月真人ふじつきまこと君」


僕は声のした方を見る。すると、そこには全身が真白い少年が立っていた。彼は肌・髪・爪など全身が眩しいと思うほどに白かった。彼の口元は笑っており、右手には古びた木の杖を持っている。そして、彼は肉体の中で唯一の明確な色がある赤い目で僕の姿を覗き込んでいる。


「あなたが……神様って奴ですか?」


僕は目を細めて白い少年に質問する。すると、彼は笑って頷いた。


「ああ、そうだ。僕は君達で言う所の神さ。そして、僕は今、君にとても怒っている。何故だか分かるかい?……君が死んだお陰でまた私の仕事が増えたんだ。どうしてくれる?」


僕は顔を俯かせ、神らしい少年から目を背ける。


「知らないですよ……僕はあの場所が嫌だった。それだけじゃないですか。自分で自分の命を絶って何か悪いんですか?……僕の命でしょ?」


僕は現実から離れた世界で、自分の本音をシトシトと吐いた。しかし、


「はぁ、これだから……未熟な生物はこういうことを言うから困る」


少年はため息と共に吐く様に遠慮無い言葉を僕にぶつける。それを聞いた僕は目を見開き、無性にその少年を心の底から煮えくり返った。


「ふざけんなッ!!!あんな世界、自殺する人間が出たって当然だ!!!!生まれた時から人生の成功や失敗が決まられていて、誰が誰を支配するかも決められていて、醜い争いや競争心から虐げられる人達は消えない。一部の人間が笑う様に出来ている世界……多人数で少数を攻撃して笑う世界……人の心なんて馬鹿にされるだけの世界ッ!!!!……あんな地獄から逃げ出して何が悪いんだァ!!!」


僕は無我夢中で色んな事を吐き出しながら、少年の顔に向かって拳をぶつける。しかし次の瞬間、何が起こったのか分からなかった。僕は全身から燃えるような熱さを感じ、一瞬で身体の髄から自分の体が消失していくのを感じた。


「……!?」


ガバリと僕は起き上がる。そして、自分の手を持っていくと傷一つ無い自分の手があった。しかし、先ほど僕は確かに殴り掛かった筈なのに今の僕の体は完全に横に倒されていた。


「いきなり殴りかかるんじゃない。良い提案をして上げようと思って、わざわざ君をここに呼んだんだから」


神は杖を一振りする。すると、僕の前に茶色いコートと白い普遍的なシャツ、黒いスラックス(ズボン)が落ちてくる。


「君はあの世界が地獄だと言ったな」


「あ、ああッ!あんな世界、僕の生きる意味さえ無いんだ。僕の他にもいっぱいいるだろ!?」


神は左手の掌を僕に向けて黙る事を促す。僕はそれに従うと、神は満足そうに頷いた。


「ああ、そうだな。だが、それは君達の世界と共鳴し合う世界に原因があるんだ」


「共鳴……?」


神は僕に近づき、僕の両手を謎の力で引く。そして、杖の先端を当て白い光を当てる。


「うわっ!」


「案ずるな、これは罰では無く譲渡なのだ」


ジュワリと溶けるような感触が白い光に包まれる両手から感じる。そこからは決して嫌悪感は無く、再構築されているような既視感ある感じだ。どれだけ時間が掛かったのか、神は僕から離れた。僕の両手は至って何も変わっている所は無い。僕は崇める様に神を見上げると、今までの様に笑ってはおらず神妙な顔つきになっていた。


「さて、簡潔に言おう。君にはもう一つの世界を汚染する者達を消失して欲しい」


「消失?」


神は頷き、僕の両手を杖で指す。


「その為に私の力の一つを人間であるお前に託した」


「……そんな実感は全く無いんだけど……」


じきに分かる、と神は僕の疑問を一蹴した。半信半疑の僕は両手に何をしたのかを質問する。しかし、それにも神は首を振るだけだった。


「とにかく、君には二分されている世界の汚染原因を消して貰いたい、と言っている」


「……対価は?」


僕は一応、成功した時を考えて報酬を聞く。神はそれに考えるような仕草をとって口を開く。


「じゃあ、君の願いを一つ叶えてあげよう。勿論、どんな願いでも良い」


「……分かった」


僕は神の頼みに正式に受諾する。すると、神は満足したかのように笑い、杖を大きく振るった。すると、星達が集まるように円を描く。僕は散らばった服を集めながらも、その自然ながら人為的な動きに一瞬見惚れる。


「ここからその世界に行ける。覚悟は出来てるな?」


神は僕を見つめて、笑いながらも緊張感を漂わせて質問する。


「……僕は前の世界みたいにじゃない、世界を良くするための人間になるんだよな?」


「まあ、そうだな。この世界では君は変革者ヤダユと呼ばれる存在になる筈だ」


「ヤダユ?」


「まあ、詳しいことは住人に聞いてくれ」


神は投げやりにヤダユとやらの話題を放り投げる。そして、杖で僕を小突く。


「さあ、さっさと行ってくれ。……ああ、そうだ」


ドンッと僕はブラックホールのような穴に押し込まれた直後に確かに聞いたのだ。


「使いすぎには気を付けろよ」


そして、僕は一瞬の内に暗闇を通り抜け、ゾワンッと全身で空気抵抗を感じ取る。腰は軽くなったかのようになり、髪の毛は僕の視界の中でワカメのように踊っている。そして、青い青い空が僕を包んでいる。つまり、


「くうぅうぅぅっぅぅぅぅぅぅちゅううううぅぅぅぅぅかよぉぉぉぉぉぉぉぉおっぉぉおおおおおお!!!!!!!」


僕は力任せに全身を曲げ、下を見ようとする。すると、そこは幸か不幸か青い海だった。これなら落ちても気絶程度で済むだろう。一度死んでしまうと、こんな危機的状況でも軽く見えるから不思議だ。しかし、安心したのも束の間だった。


「なっ!!!」


海から何かが浮き上がったかと思うと、巨大な竜のような魚が大口を開きながら現れた。このままでは飲み込まれて死んでしまう。それは当然で、その魚は自分を食べる為に顔を出したのだ。


「ちくしょう!ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうッ!!!!」


(こんな…こんな魚なんていなければ……)


舌を噛むことさえ恐れず、僕は後悔を叫ぶ。しかし、それも無駄に終わりバクンッと僕は魚の胃の底に落ちていった。

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