キティラと揺り籠

YGIN

第1話

 

 風に棚引く銀色の髪。

 捲りあがるたびに、その内部にある更なる銀髪を表出させる。

 まるでマトリョーシカのように地平線の彼方まで、永遠に銀。


 また風が止むと、最表面の美しく輝く銀の髪が眼前に表れた。


 幸福とは正にこの瞬間。


 私はずっとずっと、幸せだった。


 誰しもがある赤子のときの自分。


 私が幼児期である時の全ての思い出。


 それは祖父との思い出。


 揺り籠に乗せられ、その規則的な揺れに心を浚われている。

 祖父が目の前で微笑んでいる。


 私にはそれがすべてだった。


 父も母も姉も兄も、もう誰もいなかったけれど、私はとても幸福だった。

 

 祖父が奪われる十の頃までは。

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