第337話 妄想はほどほどに

 高原へと逃げた袁術であったが、彼には一息つく暇さえなかった。


 高原の彼方に一縷の影が見える。

 その影に近づくにつれ、影は形を変えてゆき、やがて人馬一団の様相を呈した。


「敵か、味方か?」


 人馬の影を怪しく見つめていると、その中から一人の大将が姿を現した。


 うるしを塗ったかのように光る真っ黒な駿馬に跨り、手に八十二斤の青龍刀をひっさげて、袁術の前に立ちふさがった男。


 その男は予州の太守『劉備』の義弟『関羽』であった。


「拙者の名は関羽!義のため、人のため、国のため!家兄玄徳の仰せに従い、呂布を助けに参った!」


「偽帝袁術!天を恐れぬ愚かなサルめ!」


「この関羽の誅罰をうけよ!!」


 思わぬ場所で思わぬ敵に命を狙われた袁術は、びっくら仰天して馬に鞭打ち、恥も外聞も捨て、その場から一目散に逃げ出していった。


「逃がすか!うぉ!うぉ!うぉうーーーーっ!」


 関羽は青龍刀をブンブンブーーン!と振り回しながら袁術を追いかけた。


 立ちふさがる敵を薙ぎ倒し、蹴散らし、ピンッ!としていく。


 関羽は安月給で雇われているであろう兵士たちを斬り伏せながら袁術の背に近づくと、


「その首、貰ッた!!」


 と、横殴りに刀を払ったが、わずかに馬のたてがみへと袁術が首を縮めたため、その一撃は彼の冠を払うことしか出来なかった。

 しかし、その冠はいびつな形で吹き飛んでいた。

 刀が触れたのがもし首だったなら・・・想像するだけでも恐ろしい。

 ゾンビの頭部にショットガンを打ち込んだ映像にひけをとらないシーンが出来上がっていたに違いないだろう。


 こうして袁術は散々に敗れ、紀霊きれい殿軍しんがりにのこして、命辛々、淮南へと逃げ帰った。

 それに反して、呂布はぞんぶんに敵を殲滅して、悠々と徐州へと軍を引き揚げると、盛大なる凱旋祝賀会を催したのであった。

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