第325話 物事を理解すること

 酒宴の最中で駆け引きは行われる。

 曹操は陳登の人間を量り、陳登は曹操の心を量った。


「・・・時に陳登殿。貴公は呂布の事をどう思っているのかね?」


 曹操は意味深げに陳登に尋ねた。

 すると彼は、


「あなた様の思う通りにございます。」


 と、意味深げに答えた。


「家臣である私が言うのもナンですが・・・呂布将軍はエサを見つけたら考えなしにすぐにとびかかる豺狼さいろう(=残酷で欲深い人)。感心できる人間ではとうていございませぬ。」


「私と父である陳珪も徐州に住んでいるので、やむなく彼に従っているだけで、本心では彼を信じておりません。」


「もっとハッキリもうしますと・・・『あの糞狼、早く死んでくれないかな~。』です。」


 陳登の答えを聞いた曹操は軽く頷き、


「私も同感だ。」


 と、相槌を打った。


 曹操の腹の中にも二重の考えが浮かんでいたのである。


 陳登の深い胸の内が浅瀬に来たので、曹操も本心を陸へと上げた。


「利のために怪しい人物と付き合う必要があるのはいつの世も同じ。乱世だろうが治世だろうがそれは変わらぬ。しかし、そこで大事になるのは、それを承知しているかどうかだ。」


「理解していないまま物事を進めるなど、自ら破滅の道を歩んでいるようなモノ。」


「私は豺狼である彼を招き入れこそしたが、後に悔いるようなことは私は招かぬつもりだ。」


『理解していないことが最も怖ろしい。』


 曹操の本心と腹構えを知った陳登は、謀のすべてを彼に賭けてみることに決めた。


「その心を持つあなた様と知り合えた。それだけで此度の苦労が報われた気がします。」


「中身は違えど、それは此方も同じである。少しばかり気が晴れた。・・・これから私のために力を尽くしてもらいたい。・・・貴公の父君にもよろしく頼む。」


「承知しました。これから先、あなた様が何か非常手段でもとられた場合は、必ず、我々親子が徐州より内応致しましょう。」


「頼む。・・・しかし、今夜の宴は、計らずしも有意義な一夜となった。はっはっはっは!はははのは~~~!!」


 笑い声と共に、二人は盃を上げて誓いを交わしたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る