第十四章 背徳の臣下

第324話 幸せを求めること

 大敗を喫した曹操は、一旦、兵を引いて許昌へと帰ってきた。

 すると、そのタイミングを見計らったかのように、呂布の陣営から一人の使者がやって来た。


「殿。徐州より陳登ちんとうと申す使者が見えております。」


「陳登? あの徐州の重臣、陳珪ちんけいの身内の者か?」


「左様にございます。その陳登が捕虜を一人連れて参っております。」


「捕虜だと?・・・話が見えぬが、とりあえず会ってみるとしよう。」


 曹操は大敗による心の傷も癒えぬままに、陳登と面会をすることにした。


「私が曹孟徳だが・・・貴公が陳登か?」


「はい、陳登にございます。・・・曹操様、お忙しい中、御目通り感謝いたします。」


「うむ。・・・して、貴公の横にいる亀甲縛りされておる変態男は一体何者かな?」


 チラリと横目で陳登の横にいる男を見て、曹操は彼に問いかけた。


「この男は袁術の家臣の韓胤かんいんという者で、徐州へ使者として参った者にございます。」


「ほう、使者とな?・・・で、その使いの内容は?」


「袁家と呂家の縁談話についてでございます。」


 陳登の言葉に曹操は眉をピクリと動かした。


『袁家と呂家の縁談話』


 この内容の報告は以前より曹操の耳に度々入って来ており、報を受けるたびに曹操は、


(両名が手を組むと厄介だ。縁談話がまとまる前に、両名のいずれかを討たねば、後の憂いになる。・・・しかし、どうしたものか?)


 と、頭を悩ませていたのであった。


「縁談の使者となると、その者は貴公の主・・・そう、呂布にとっての賓客であろう?何故、その大事な客を捕らえて私の下に連れて来た?」


 曹操が問うと陳登は、


「呂布将軍はあなた様から平東将軍の称号を賜り、いたく感激し、野心家の袁術よりも、あなた様と親善を固めたいと申しております。・・・その証として、袁術の使者である韓胤を縛り上げ、此処に連れて来た次第にございます。」


 と、使いの口上を述べた。

 すると曹操は喜んで、


「貴公の言葉に心がピョンピョンと弾んだ!」


「双方の親善が結ばれれば、呂布も幸せ!私も幸せ!」


「互いの手のしわとしわが合わされば、幸せになることは間違いない!」


「陳登殿!お役目ご苦労であった!!」


 と、使いの陳登の苦労を酬い、その夜、自身の私邸へ彼を招き入れ、宴を開いたのであった。


 ・・・ちなみに、捕虜であった韓胤はと言うと、曹操の


「打ち首!」


 の一言で、首を刎ねられ、その首は市中に飾られたのであった。


 チャンチャン♪

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