第315話 道理に反しない

 数日後。

 曹操と鄒氏の関係は、部下を通じて賈詡の耳に届いた。


(テハハハハ。それは面白い。久々に良いことを聞いた。)


 話を聞いた彼は、すぐに張繍のいる座所へ出向いた。


「張繍様、ご存知ですかな?」


「・・・何がだ?」


「近頃、曹操が鄒氏と夜な夜なイチャイチャしているという噂です。」


「なにっ!?」


 話を聞いた張繍は声を荒げた。


「なんと不埒な!この城を乗っ取っただけでも飽き足らず、叔父の妻であった鄒氏にまで手を出すとは!何とうらやま・・・もとい、何と傲慢な奴だ!・・・キイイイイイイイ!!許さんぞ~~~い!!」


 キーキーと暴れ猿のように叫ぶ張繍。

 何故彼がこれほどの怒りを露わにしたのかと言うと、彼は鄒氏のことを少なからず思っていたからである。

 事実、叔父の張繍が没した時、彼は鄒氏を自分の妻へ迎え入れようとしたことがあった。

 しかし、未亡人に手を出すのは道理に反すると思い、自重して、淡い恋心を捨てたのであった。

 ところが、曹操はそれを平気でやってのけた。

 張繍とは違い、一切の迷いなく、彼は鄒氏を自分の手中に収めたのである。


 欲しいモノは手に入れる!それが人のモノであればなおさら手に入れたくなる!


 それが曹孟徳という男であった。



「――――まあまあ、張繍様。お怒りは尤もですが、これは曹操が油断している証拠ですぞ。」


 怒れる張繍を賈詡が諭す。


「この機を逃してはなりませぬ。曹操の奴をもっと油断させ、復讐の舞台を作り上げるのです。」


「・・・何か策があるのか?」


「テハハハハ。もちろんです。私に一計があります。」


「・・・期待してよいのか?」


「もちろんですとも。テハハハハ。ご安心を。テハハハハ。」


 妙な笑い声のせいか、イマイチ彼を信頼できない張繍であったが、誰もが認める彼の智才を信じて、張繍は彼に任せることにしたのであった。

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