第304話 まじめに仕事をこなすこと

 縁談ご破算より数日後。

 とある報告が呂布の耳に届いていた。


「将軍、ご存知ですか?近頃、小沛の劉備が馬を買いあさっているそうです。」


 この報を聞いた呂布は、


「武将が馬を買い入れるのは、いざという時の心がけだ。別に気にすることも無かろう。・・・かくいう俺も馬を買うために宋憲そうけんを山東へと遣わしておる。」


 と、特に慌てることなく言葉を返した。


 それからさらに三日が経過した。

 山東地方へ馬を買いに行っていた宋憲と脇役たちが徐州の城へ帰ってきた。

 そんな彼らの身なりと言うと・・・ボロボロであった。

 髪は砂と泥に塗れ、磨き抜かれていた鎧は傷だらけになり、彼らは戦に敗れた残党兵のような身なりであった。


「将軍~~!やっちゃいました~~~!このような辱めをしてしまったら・・・もう私、お婿に行けない!!」


 宋憲は呂布の前で跪き、ワンワンと泣きながら謝罪の言葉を述べた。


「ええい!泣くな!泣いていては事情が分からん!!ちゃんと説明せよ!!」


「はい・・・実は・・・買った軍馬、三百匹、全て盗まれました。」


「なにっ!? 盗まれただと!一体誰にだ!!」


「それが・・・その・・・盗賊に・・・」


「馬鹿野郎!!」


「ひぇっ!!」


 呂布は激怒した。

 彼の額には青筋が立ち、こめかみが怒りでピクピクと動いている。


「この穀潰しめ!貴様らは日頃、何のために碌を喰っているのか!!」


「大事な軍馬を盗賊に奪われて、メソメソと帰って来るなど恥も恥!お前らは盗賊を見つけたら即座に捕まえるのが仕事であろうがッ!!」


「お前の無能さは作者と同等だ!このゴミ虫野郎!チン〇ス野郎!実家に帰ってママのおっぱいを吸いながら謹慎してろ!!」


 メソメソと泣く宋憲に罵詈雑言を浴びせる呂布。

 そんな怒れる獅子王を前に、宋憲はひれ伏しながら言い訳を述べる。


「しょ、将軍の怒りはごもっともでございます。が、その盗賊たちの動きは俊敏で、そんじゃそこらの盗賊、野盗、山賊、海賊、政治家などの犯罪集団ではございません。訓練された兵のようにございました。」


「皆、屈強のタフガイばかりで覆面を被っており、中でも頭目の強さは登場初期のガ〇ダム並みの無双っぷりで、我々は近づくことも出来ず、ただただ『あ~ん!ママ~~!!』と泣き叫ぶだけでした。」


「そのあまりにも見事な手際に我々は疑問を抱き、馬の足跡を追いましたところ、そこには衝撃の展開が待ち受けておりました。」


「・・・張飛です。盗賊の頭目は小沛にいる劉備の義弟、張飛でした。張飛が子分を引き連れ、盗賊のマネをして我々から軍馬を奪ったのです。・・・もう一度言います。張飛です。・・・張飛ですよ!張飛!プロデューサーさん!張飛ですよ!!うっう~~~!!」


 そう言って宋憲は顔に手を当て、再度メソメソと泣きだした。


 呂布には宋憲の言葉が信じられずにいた。

 罪を逃れるための口から出まかせだと彼は思った。

 しかし、その言い訳の中には、自分を最も憎んでいるであろう『張飛』の名があったので、彼は念のため宋憲に尋ねた。


「本当に張飛なのか?」


「本当は本当です。」


「嘘ではなく本当に本当の嘘でなく本当なのか?」


「はい。嘘ではなく本当に本当の正真正銘の嘘偽りなく本当です。」


「むむむ・・・嘘っぽく聞こえるが、嘘ではなく本当である本当か・・・ならば許せん!俺の堪忍袋は破れた!!」


 呂布は席を立ち、


「俺は怒ったぞーーーー!!!劉備ーーーーッ!!!」


 と、咆哮した。

 城中にいた大将たちは呼び出され、一同が揃うと、


「劉備殲滅戦を始める!すぐに小沛へ出陣するぞ!!」


 命を下すや否や、彼は甲冑を身に付けて赤兎馬に跨ると、軍勢を引き連れて小沛の県城へと押し迫ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る