第303話 命数を減らさない
徐州に、
父が陳珪で、子が陳登である。
二人は呂布の配下の者であるのだが、心は違った。
二人は小沛の劉備を敬愛しており、劉備を徐州の太守にしようと、日々、画策しているのであった。
「――――まずいですぞ、父上。このままでは劉備様の命が・・・。」
「うむ、わかっておる。このわしに任せよ。」
呂家と袁家との縁談話を聞きつけ、彼らはすぐに行動に移った。
陳珪は屋敷を飛び出すと、呂布のいる徐州城へと向かった。
城内にはあらゆる華麗な嫁入り道具が揃っていた。
花嫁が乗る白馬金蓋の馬車とそれを護衛する美装した武士たちがいる。
また、昨夜は盛大な祝宴が行われていたのか、その痕跡が陳珪の目の端にちらちらと映る。
(いかん!いかんぞ!急がねば!!)
老齢の陳珪は息を切らせながら徐州城を駆け上がり、呂布との目通りを求めた。
「陳珪殿ではないか。何故この城に来た?祝いになど来なくて良いのに。」
呂布が言うと、
「あべこべです。」
と、陳珪は、
「祝いの言葉ではなく、弔いの言葉を言いに来たのです。あなたのご臨終が近づきましたので。」
いきなり家にやって来て、不吉な言葉を目の前で吐かれて怒らない人間はいないだろう。
呂布は誰の目から見ても不機嫌だと分かるほどに顔をしかめて、彼に言い返した。
「ご臨終が近づいただと?・・・老人。それは自分の事を言っているのではないのか?」
「いいえ、死に体の
掌を合わせ、死者を弔うようにお経を読み上げる陳珪の姿に、呂布は増々眉をひそめた。
「・・・ボケたか?」
「いいえ、ボケてはおりませぬ。私はいたって正常です。正常ではないのは・・・将軍、あなたの方です。」
「俺が正常でないと?」
「左様。自分から命数を減らしに行くなどドMの所業です。自ら冥土へ冥土へと足を進める将軍は正常者ではありますまい。」
「・・・これ以上不吉なことを申すな。このめでたい吉日に。」
「吉日?それまたあべこべです。今日は吉日ではなく厄日です。それに気づかぬのは、将軍が死神に憑かれているからです。」
「・・・何故俺に死神がついているのだ?」
「袁家のせいです。」
「袁家の?」
「左様。今度の縁談は袁術の策謀です。あなたに劉備という者がついていては、あなたを滅ぼすことは出来ない。そこでご息女を人質に取り、劉備を滅ぼした後、徐州へ攻め寄ろうという考えなのです。」
「・・・・・・」
「信じられないでしょうが事実です。・・・ああ、何と怖ろしい!怖ろしいのは、人の命数と袁家の巧妙な策略じゃ!ああ、怖い怖い!!ガクガクブルブル!ガクガクブルブル!」
陳珪の大げさな演説に呂布はすっかり心を動かされていた。
「う~~む・・・。」
しばらく呂布は唸っていたが、やがて陳珪をその場に置き放したまま、大股で何処かへ出て行った。
「陳宮!陳宮ーーーーっ!!」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!なんすかーーーーっ!!」
閣の外に大声が聞こえたので、何事かと陳宮が詰所より飛び出して来くると、呂布はその面を見るなり、
「この浅はか者!!お前の稚拙な判断ミスで、俺は道を誤るところであった!!」
と、陳宮を怒鳴りつけた。
「えっ?・・・えっ?・・・What?」
事態が理解できない陳宮が言葉に詰まり呆然としている中、呂布は騎兵五百名を庭に呼びつけ、
「中止!中止!輿入れは中止だ!!縁談、ご破算、さよならさんだ!!――――すぐに馬車を解体しろっ!!」
と、言い渡した。
呂布の気まぐれはいつもの事であるが、これには皆、泡を食った。
しかし、上司からの命令を反することなど出来るはずもなく、騎兵隊は命令通りに馬車を解体し、出発を取りやめたのでやった。
その後、呂布は一筆したため、
「昨夜から急に娘が
と、袁術へ早馬を送ったのであった。
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