第282話 若さとは強さである

 孫策二十一歳。

 太史慈三十歳。


 両名共に若く、日が昇ったばかりの若武者である。

 そのため、『経験』という点では甘さが残る両名であったが、二人の戦いは見事なモノであった。


 馬に乗って戦うということは、波に浮かんでいる小舟と小舟の上で戦っていることと同義。

 すなわち、単純な腕の強さだけでなく、駒の操縦の良し悪しも勝敗を分ける重要な要素の一つということになる。


 二人は手綱を握る手に力を込め、相手の尾側へと付け入ろうとするが、互いに一歩も譲らず、馬を躍らせ背後へ付け入る隙を与えない。


 馬術は五分。では腕の方はどうかと言うと・・・これまた、五分。


 百余合打ちあい、駒を巧みに操るも両者の間には決着がつかなかった。


「うおぉぉぉぉ!!」


「キイエェェェェ!!」


 百獣も寄り付かんばかりに奇声を上げ、刃の金属音を奏でさせるも、相手の断末魔を上げさせることは叶わない。


 やがて、人馬ともに汗を流し、両者が息を切らせていると、


((このままではダメだ!組まねば勝てぬッ!))


 と、勝負を急ぎ始めた。

 その時・・・


 ガッ!!


 と、両方の鐙が意図せずぶつかった。

 瞬間、孫策はよろめき、一瞬の隙が生まれた。


(!? 好機!もらった!!)


 すかさず太史慈は槍を突出させる。

 しかし孫策、彼はすんでのところで槍をかわして、柄を脇で挟み、余った腕でそれを引っ張った。


「あっ!?」


 槍を引っ張られたことで、太史慈は前方へと引かれ、馬より引きずり落とされそうになった。

 こんな時、普通の人間は重心を後方へと下げて、体制を整えようとするだろう。

 しかし、太史慈は違った。

 逆に考えたのだ。「落馬してもいいや」と。


 太史慈は体制を立て直そうとするどころか、逆に引っ張られている前方へと勢いをつけた。

 そして、引っ張られた先には孫策の体が。


「うぐぅ!」


 二人の体はぶつかり合い、跳ね踊った馬の背から大地へと転げ落ちた。


 五接地転回法の技を使ったことにより、両者ともに大きな外傷はなし。


 二人は即座に立ち上がり、腰に差していた剣を抜き、体を向け合った。

 しかし、二人は動けずにいた。

 疲れと落馬の衝撃により、体が思うように動かない。


「ぜぇぜぇぜぇ・・・ぜぇ。」


「はぁはぁはぁ・・・はぁ。」


 剣先を互いに向け合い、呼吸を整えていると、彼方より馬蹄の響きが聞こえて来た。


「孫策!無事か~~~!!」


 聞くに、どうやら孫策の配下の者たちが近づいて来るようであった。


「!? まずい!いかん!逃げます!さいなら!!」


 太史慈は、最後の力を振り絞って自分の馬のいる方へと駆けだした。


「逃げるのか!卑怯者!!」


 孫策は罵ったが、


「勝負は後日に預けたり!延滞料金はきっちり払うので、今日はこれにて御免!!」


 太史慈は乗馬すると、「ハイヨー!シルバー!」と、彼の好きな謎の掛け声を発してその場から逃げ出したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る