第257話 自意識過剰はほどほどに

 南陽の袁術は、今、怒りに燃えていた。

 その理由は急使により届けられた、曹操からの手紙を読んだことにある。



袁術殿

親友たる君に忠告を

高貴なる君に忠言を

劉玄徳は請うている

帝に奏して請うている

自らの野望を遂げんがため

南陽侵略の許しを請う

沈黙は金と世は言うが

黙視するのは忍びなく

ここに一筆したためる

くれぐれも油断なされるな



 城中の紫水閣しすいかくへ諸将を集めた袁術は、一名の近習きんじゅ(=側近)に以上の曹操からの手紙を読み上げさせた。


「聞かれたか!一同!」


 彼は吠えた。

 声を大にして、面を朱にして罵った。


「劉玄徳が何とする!奴は田舎者!むしろを売っていた匹夫ひっぷ(=身分の低い者)ではないか!そんなド底辺男が我が領土を奪い取らんとしている!」


「いつの間にか徐州の太守の地位に坐ったことさえ奇天烈であると思っていたのに、今度は身の程をわきまえず、この南陽を攻め入らんとしている!」


「底辺ゴキブリ野郎に、南陽の地を領土改革テラフォーミングさせてたまるか!そんなことを許してたまるか!天下の見せしめに、すぐに兵を向けて、ゴキブリ野郎共テラフォーマーズを踏みつぶすのだ!」


 手紙にも書かれている通り、袁術は名家の生まれの高貴な者である。

 そんな彼は傲慢で高飛車な男であった。

 田舎者の劉備が高貴な自分の領土を侵すことは、『天に唾を吐く下賎な者の振舞いである。』と彼は強く憤った。


「行けや!徐州に!」


 袁術が命を下すと、その日の内に、十万余騎が南陽の地を立って行った。

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