第199話 隙を見せないこと

 曹操の説得に失敗して徐州への侵攻を許した陳宮。

 そんな彼が逃げるようにして陳留の太守『張邈ちょうばく』の元に身を寄せたのは記憶に新しいことであろう。

 そして今、呂布と陳宮が陳留という地で運命の出会いを果たしたのであった。



(何だコイツ・・・きもちわるっ!!)


 中二病の様なセリフを吐き、冴えない風貌の陳宮を見て感じた素直な気持ち。

 呂布は眉をひそめ、胡散臭い顔をして陳宮を黙って見つめていた。


「・・・俺の馬が肥えていようがいまいが俺の勝手であろう。何故お主がそれを気にする?」


 しばらくの沈黙の後、呂布がそう言うと、陳宮は「ククク・・・クーーーッ!」と笑い、返事を返した。


「もったいない!もったいない!もったいないおばけですぞ!呂布殿!!」


「『児童も子供も大人も知る!馬中の一は赤兎馬で!勇士の一は呂布奉先!』とうたわれた真の英雄である貴殿が、他家に身を寄せ、暇を持て余しているのは実に惜しいことですぞ!」


「そんな貴殿を助けたく、私はここに参上つかまつったのです!Do you understand?(ご理解いただけましたか?)」


 陳宮が笑いながら呂布の屋敷にやって来た理由を説明すると、呂布は増々眉をひそめて警戒心を強めた。


「・・・っていうか、お主は誰だ?名を名乗れ。」


「おっと、これは失礼。名乗っておりませんでしたな。・・・私はこの地に住んでおります『陳宮』という無名の浪人です。」


「なにっ?陳宮だと?・・・では以前、中牟県ちゅうぼうけんの関門で曹操を助けたのは・・・」


「その通り。曹操を助けたのは私でございます。」


「むむぅ。曹操を助けたのはお主であったか。それは御見逸おみそれした。・・・で、話を戻すが、先ほど俺を助けたいと言ったが・・・それはどういう意味なのか?」


 怪しげな男の正体を知った呂布は陳宮に先ほどの言葉の真意を問いかけた。

 この問いに対して、陳宮は笑顔を止め、真剣な表情で言葉を返した。


「将軍はこのまま荒野を回り、行く先々で寄生生活を続けるおつもりなのですかな?それを先に聞きましょう。」


「ぬっ!? そんなことはない!俺にだって志はある!しかし、今はその時では」


「『その時ではない!』ではないですぞ、呂布殿!今が好機!絶対的、普遍的、相対的、どこからどう見ても絶好の好機ですぞ!今、曹操は徐州攻略のために兗州を空にしております!この隙を突き、将軍が兗州を電撃突撃ブリッツすれば一躍膨大な領土が将軍のモノになりましょう!!」


「あっ!?」


 呂布の顔に光明が射した。

 冷めた血が沸騰し、気持ちが昂る。

 まさに晴れ晴れとした、すがすがしい気分であった!!(ネウロ感)


「General!Take a chance!!(将軍!一か八かやってみるのです!!)」


「よし!やろう!曹操の領土を略奪しよう!陳宮!俺について来い!!」


「イエス・マイ・ロード!!」


 こうして呂布は陳宮と共に兵を引き連れて兗州に攻め入り、本拠地を占拠した後、さらに勢いに乗って、濮陽ぼくよう方面まで侵攻したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る