第198話 人は安定を求めるもの

 呂布が大権を握ることが出来なかったのは百八十二話で述べたとおりである。

 では、その呂布が何故、空き巣を狙って兗州に攻め入ったのだろうか?

 本話と次話はその理由を述べる話とする。



 都を追われた呂布は袁術の元へと身を寄せたが、その後、各地を転々として陳留の太守『張邈ちょうばく』の元で足を留めていた。


(・・・まずいな。やることがない。このままでは兵を養うことが出来んぞ。)


 各地を転々とする中で、彼を慕う兵たちの心は離れていき、日に日に兵の数は減りつつあった。


(安定したろく(=給与)が無ければ心が離れるのは当然のこと。・・・どうしたものか。)


 このんで不安定な会社に勤める人物などいるはずもなく、彼の激励の言葉むなしく、兵たちは夜な夜な軍を去っていった。



 そんなある日のこと。

 事態が解決出来ない呂布は、気分転換に馬を走らせ、城下に遊びに出かけようとした。

 屋敷のうまやより名馬『赤兎馬』を外に持ち出そうとしていると、彼の元に1人の男が近づいてきた。


「ああ、何と嘆かわしいのでしょう!天下の名馬がまるで豚の様!無駄に太らすなど愚の骨頂ですぞ!」


 彼の元に近づくなり皮肉を述べたその男は、先頃、曹操説得に失敗した『陳宮』であった。

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